尼崎文学だらけ
ブース 大衆小説A
ザネリ
タイトル 猫を飼う
著者 オカワダアキナ
価格 300円
カテゴリ 大衆小説
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紹介文
「誰かが勝手におれの名前と住所を使って猫探しをしている!」
池袋〜雑司が谷〜早稲田周辺、夢とうつつをさまよいながら、猫を追いかける個人的な冒険。

鶴森ハルオ・30歳、作家志望。ある日見知らぬ女が訪ねてきて、猫を差し出される。
女は迷子の猫を探すチラシを見てきたと言うが、ハルオは猫を飼っておらず身に覚えがない。
どうやら誰かが勝手にハルオの名前と住所を使ってチラシをつくり、雑司が谷じゅうにばらまいているらしい。
なし崩しに猫を預かるはめになるハルオ。犯人探しの探偵ごっこをしながら、猫に手を焼き、無職になり、女と距離を縮めていく。
そんな日々を過ごすうち、預かった猫がいなくなってしまい…。

墓と猫の町、雑司が谷を舞台とする日常不可思議物語!

〈幕前〉

 元旦、死んだ友人から年賀状が届いた。
 亀山三四郎という古風な名前の男で、暮れにクモ膜下出血で死んでしまった。それは何の前ぶれもない死だった。亀山とは高校時代クラスが同じでよくつるんでいたが、ここ何年かは年賀状のやりとりぐらいでしばらく会っていなかった。そのためか、どうも奴が死んだという実感は薄い。
 亀山は例年通り、律儀に年賀状を準備していたらしい。早くにきちんと投函したのだ、まさか自分が死ぬとも知らずに。

『謹賀新年 元気にしているか。
 じつは、おれは結婚した。驚いたか?
 まあ、おれたちももう三十だものな。
 よかったら今度遊びに来てくれ。
 嫁さんはケーキを焼くのがうまい』

 ボールペンのふにゃふにゃした字で、そう書き綴られていた。いかにも新婚夫婦らしい写真がぴかぴかに印刷されている。嫁さんの名は毬子さんというらしい。大晦日に執り行われた葬式で死んだ顔や泣いた顔をさんざん見たあとでは、この年賀状もたちの悪いイタズラのように思える。亀山の死はいよいよ非現実的だ。
 そしてその年賀状の新しい住所の下に、さらにふにゃふにゃの小さな字で書き添えられていたのは、こんな言葉だった。

『鶴森、お前の筆は進んでいるか?』
 
 おれは鶴森ハルオという。
 中学生のころ太宰治に憧れて小説を書き始め、(一度も入水はせずに)いつのまにか三十になった。物書きのはしくれのつもりだが、おれの書いたものは金にならない。大学時代にとった地方の小さな文学賞を唯一の栄光とし、書くことにしがみついてはいるものの、まるで仕事はない。今やおれの文章に関する仕事はフリーペーパーの星占いコーナーだけである。誰も読まない、記憶に残らない星のお告げを、ちまちま書いている。


現実が乖離していく中でのささやかな希望。猫はかくも異界の生き物かと。飼われてやってる感が見え隠れしてにやり。
その後の彼の収入が若干心配ですが、ふたりとも仲よく暮らしていくっぽいところがなんとかなるさ感があってよいエンド!
傍らに猫がいれば。
推薦者まるた曜子
推薦ポイント物語・構成が好き

不思議な世界に取り込まれます。
変わった形の本。
不思議な流れの物語。
化かされたように進む一連の話は
最後に向かって集束していきます。
読後感も不思議なのに少し気持ちが晴れるような、
良い作品です。
推薦者第0回試し読み会感想
推薦ポイント世界観・設定が好き