尼崎文学だらけ
ブース ライトノベル3
オービタルガーデン
タイトル ぼくらはここに。
著者 夕凪悠弥
価格 100円
カテゴリ ライトノベル
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紹介文
たとえ、だれの瞳に映らなくとも。
だれに触れることができなくとも。
ぼくがぼくだということは、
ぼくがちゃんと、知っているから。

ラノベ書きがフィーリングで「文学っぽい」何かを書いてみた短編二編を収録。
ラノベテイストでお届けする、自我と存在についてのささやかな物語。

 僕は信号待ちの時にはいつも逆立ちをする。
 理由なんかない。ただ、そうしたいから、そうする。
 僕は、どうやらそんな人間のようだった。

「はあ」
 疲れたような溜息が聞こえる。
 それを聞くと、朝を感じるのは、もうその溜息を聞き慣れたからだろう。
 だから僕は、その次に聞こえる言葉も知っていた。
「なんで死なないんだろ」
「そうだね……」
 そう言って適当に返す自分は、交差点で逆立ちのまま。
 ちなみに、彼女はさっき唐突に交差点に飛び込んで、車に撥ねられて右腕を折って戻ってきたばかりだった。
 相変わらず変な子だった。

(自称奇人と他称狂人)

* * *

 ――そして世界は今日もひっくり返る。

 ビルの屋上で、少年は目覚めた。
 赤黒い色彩を浮かべたワイシャツを着た姿で、仰向けのまま身じろぎ一つせず、彼は瞼を開く。
 虚ろなその眼に映るのは、平坦な空を悠々と泳ぐ、クジラの姿。
「おはよう。ニニルナ」
 透き通るような小さな声で、彼はクジラに向かって囁く。
 その言葉は独り言のように宙に吸い込まれて消えていった
 彼はそのまま宙を見上げていたが、
「ん……っと」
 凝り固まり、痛む身体を気にした様子もなく、少年は静かに身体を持ち上げ、そして裸足でコンクリートの上に立つ。
「今日も世はなべて事もなし……」
 空を見上げて彼はつぶやく。
 見上げる先は空。青と赤と黄に彩られた空を、緑色のクジラが泳ぎ、ガラクタは宙を舞い、相変わらず世界は無邪気な暴力に溢れている。
「だったら良かったんだけど」
 視線を下げ、フェンスのない屋上の縁に立ち見下ろす世界は、せわしげにデタラメな生成崩壊を繰り返すばかり。
 そこで人は生き、死んでいく。
 それらを俯瞰し、彼は、ふぁ、と小さくあくびをする。
「今日も二度寝かね」
 つまらなそうにそう言って、
「おやすみ」
 フェンスのない屋上から、吸い込まれるように地面に向かって落ちていった。

(フラグメント)


確かに。
雰囲気が梅雨と初夏と
何か分からないじめじめしたものに
包まれるようで味のある作品です。
内容は暗い、のに空気は暗くない。
かといって軽くない。
心の混沌がぐちゃぐちゃのまま表現されていて
不思議感覚でした。
推薦者第一回試し読み会感想
推薦ポイント表現・描写が好き