尼崎文学だらけ
ブース 企画本部
白昼社セレクト
タイトル 菌くさびら
著者 山本清風
価格 700円
カテゴリ そのほか
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紹介文
主人公が映画学校に通っているのは映画監督になるためだが、言い訳ばかりをしてちくとも映画を撮りやがらぬ。だが当人は至って真面目であって、真面目な顔をしてチラシの裏にシナリオを書いたり友人とカレーを喰ったり大家の部屋にムカデを放ったり、大学生めいた自堕落な生活をしているのである。ヒロインとして姉が登場、映画監督になるため一大決心した主人公が選んだ方法とは──。
この作品は二〇〇〇年くらいに書かれたため、所謂ゼロ年代の空気が封入されている。エヴァ以降、ひぐらしやまどマギに至る系譜にぴたりとはまる文体小説。この文体で全行程書き切っているのは確かに驚きで、現代に於いて特異な文体の小説はほぼ絶滅したといっていいだろう、まあ文学自体が百年くらい前にくたばっているのだが。倒しても倒しても甦ってくる文学ゾンビをエンジョイなさるとよろしい。

傾向。嫌な傾向だね。ちょっと家を空けた間に虫は復活してるしね。なんなのこれは、なんで大きくなってんのって。やっぱりあれか、死の淵から蘇るたびに強くなるというあれか、純粋な怒りで目覚めんとするのかあれは。普段ならば学校にいっている時間帯である。臨時に金子が入ったために不自由することもなく、あたらしい煙草とあたらしいペットボトルの茶を手に入れた。そうして音楽も。多少大きな音をだしても怒られまい、はやい時間だから。いつもはいない時間だから。有意義に流れてゆく時間をまえに私、いつものように悪態をつく必要もなく、ぼんやりとした休日、実にゆるやか。ではではシナリオをと座蒲団をずらした刹那、玄関でチャイムが鳴り響く。私は身構える。その必要性を問われれば、私の部屋を訪問する人間は多くない。むしろ限られた人間。それでいて、その人間のなかでも小島という人間については、庭の前を通り、存在を知らしめた上でチャイムを鳴らすことなく扉を軽く叩き、そのような呼び掛け。はたまた大家、にっくき人間の呼び掛けはこれもまたチャイムに頼らずして、その肉声を以て私に呼び掛けする。さすれば自ずと残るは、受信料の集金である。彼は不規則な行動で私を攪乱する。それから逃れるには彼以上の不規則な生活で以て応戦する以外に手だてはない。そうだ。それしかない。やはりそうだ。彼だ。玄関口から彼の呼び掛ける声、聴こゆ。

「いらっしゃいませんかあ、どんどん」