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「雪の壁がね、町を囲んでいるんですよ」 |
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この本の中には沢山の町が出てきて、とても全ては語れないので、一番大好きな「音町」を紹介します。でもこれ、絶対ネタバレしちゃいけない話なんですよ。見事な結末を持ったストーリーを、結末を隠して説明する。出来るかな(ドキドキ) まりもさんの「楢の薫り、楓の音」という作品。本の最初に収録されています。 楽器の製作を生業とする「音町」 楽器職人であるエレンは「酒町」の人々のためにバイオリンを作っている。音町の人々と違って、酒町の人たちは楽器を大事にしない。外で演奏したり、上にお酒をひっくり返したり。そして酒町の人が求める音色は、音町のそれとはずいぶん違っているらしい。 他の町に行くことは難しいので、彼らの音楽を聴くことは出来ない。楽器を修理する時の注文や、音町と酒町を行き来する運び人の話から、ぼんやりと酒町の音楽が浮かび上がってくる。 賑やかに酒を飲みながら、楽しく早いテンポで踊るのにぴったりな。 美しく上品な音楽こそ素晴らしいと信じている音町の人々は、酒町の人々をあまり良く思っていない。それでもエレンは酒町の人々と音楽に惹かれている。酒町の仕事なんてやめるべきだという忠告も、プロポーズも断って、酒町のためのバイオリンを作り続ける。そして。 思い出すだけで涙がじんわりにじんでくる、あの結末。 決して悲しみの涙ではない、ということくらいは伝えても良いだろう。 直接会うことの出来ない人々を思い、触れることの出来ない何かに憧れる。 「まるで私たちみたい」 そんな風に思いませんか? | ||||||||||
推薦者 | 柳屋文芸堂 | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |
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人々が、己の生まれた《まち》で生涯を過ごすことを定められた世界を舞台に、それぞれの《まち》の物語が綴られたアンソロジーです。幻想的なテーマもとに、各執筆者様がそれぞれの個性を発揮され、魅力的な物語がたっぷりと詰め込まれています! そのたっぷりさ加減と言ったら、がっつり厚みに表れています…これ青年誌のコミックスくらいあるね、うん…。 なのにすごく読みやすくて、一週間ほどであっという間に読み終えてしまいました。本編は勿論、可愛らしい装丁や、主宰者・くまっこ様お手製のブックケースと栞がついてくるなど、随所にあたたかな気持ちのこもった一冊です。 自らの《まち》を愛してその中で懸命に生きる人たちがいる一方で、《まち》から出ようと画策する人もいる。《まち》を出ることは叶わないけど、別の《まち》にいる人と掛け替えのない絆を築いてそれを大事にする人もいる。《まち》という制限があるからこそ、そこに暮らす人々の在り方がより如実に描写されています。ぜひお手にとって、お気に入りの《まち》を探してみてください。そしてあなたもぜひ自分だけの《空想のまち》を作ってみてくださいね。 | ||||||||||
推薦者 | 世津路 章 | |||||||||
推薦ポイント | とにかく好き |
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象印社のくまっこさんが主催された、「空想のまち」をテーマにした、アンソロジー本です。 本体もすてきなんですが、特筆すべきはやっぱり外箱…!!手作りの箱がすごいんですっ(感涙) 箱が丸くくりぬかれていて、そこから表紙イラストの女子がこっちをチラッと見ている感じが絶妙で!! 狙ってたんでしょうか、このデザイン。それとも、できたイラストから箱のデザインを決めたのかな? どっちにしても、素晴らしいです〜!!! 栞を付けてくださったのもすごくありがたかったです。自立するぐらい分厚い本なので。 この本には「空想のまち」というキーワードに加え、そのまちが存在する「世界」を参加者皆で 共有するという、独特のルールがあります。それは、「人々は生まれた町に守られて、その中で 生涯を暮らす」「他の町へ行くバスに乗るには、法外なお金がかかる」「限られた少数の人々が 町と町を行き来し、それぞれの町は細々と交流をしている」といったものです。このルールの中で、 参加者はそれぞれの「まち」を作っています。 最初にこの企画を聞いた時にはどんな本に仕上がるのか想像できませんでしたが、蓋を開けてみると、 他にはない面白い本になったなぁとびっくりしました。 このアンソロジーには14人の書き手が参加していて、それぞれの町は参加者各人の個性で書かれて いるのに、全部読んでみると不思議な一体感を感じます。たとえて言うなら、一冊読んでしまうと、 まるで一つの世界をぐるっと一回りしたような充実感を得られるというか。それは、この本を作るに 当たって決められたルールを皆が共有しているからなのだろうな、と思いました。 それぞれが自由に書いているのに、どこか繋がっている。そこが、ひとつひとつの作品が持つ力の上に、 更なる魅力を付与してくれています。 くまっこさんが作品タイトルに「ぼくたちのみたそらは きっとつながっている」という言葉を選ばれた わけが、読んでみてすごく分かるような気がしました。 あっ、ちなみに。 必ずしも掲載順に読む必要はないと思うのですが、一番最後に載っているくまっこさんの 作品だけは、最後にお読みになるのをお勧めします^^ そのほうが絶対に味わい深くなると思いますよ…!! | ||||||||||
推薦者 | まりも | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |
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「世界は幾つもの《まち》でできている」という世界観を共有し、参加者それぞれが独自の《まち》を空想して書いた、シェアワールド的なアンソロジー。 音町、蛍町、箪笥町、砂町、本町、夜町、星町、雨町、星見町、宙町、湯町、墨町、幡町、地理町……登場するまちには、それぞれルールがあります。そのル?ルは、まちの歴史や在り方と密接に関わっています。その中で生きる人々は、大抵はまちの在り方に沿って生きているのですが、そこからほんのすこし踏み出してしまったり、わざと出ていったりする人もいて、まちと人との在り方・関わり方が、どの物語でもきらきらと光っていました。 そして、本を読み終えて思ったことは、ここに書かれたまち以外にも、まだまだたくさんのまちがあるのだということ。本はここで終わるけれど、まちと同じように、あるいはその数だけ、物語もあるのだということ。 自然と、ほかにもこんなまちがあったらいいなぁという気持ちが浮かんできました。そんな風に、きっと、読んだ人の心に、新たなるまちを思い描かせてくれるアンソロジー。ぜひ読んで、あなただけの空想のまちを思い描いてみてほしいです。 最後に、このアンソロジーには手製のブックケースがついているのですが、本を宝箱にしまうような気持ちにさせてくれる、とても素敵なアイテムです。 本を大事にしたい、大切にしたい、そんな気持ちが感じられて、とてもうれしくなります。 | ||||||||||
推薦者 | なな | |||||||||
推薦ポイント | とにかく好き |