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タイトル 僕の真摯な魔女
著者 まるた曜子
価格 200円
カテゴリ 恋愛
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紹介文
魔女に恋した。
―――僕は未来を可能性を諦めない―――

《魔女》という万能ワードからは遠い、縛られた世界。
それでも心は自由だし選択肢はまだ0でなく、
僕と君は共に歩いて行けると笑うひとがいる世界。

前向き尊大男前男子の揺るぎない想い。
世界のえぐみを飲み干しながら。


R15 オムニバス形式

 ほぼ最後の頃に彼女を含む女子3人が見舞いに現れた。だが骨折とはいえ入院
している僕より遙かに彼女の顔色が悪い。なぜだ。
「単純骨折だからすぐ出られると医者からは言われている。これから年末だし、
しばらく自宅でのんびりするさ。年明けの後期テストには充分間に合うんだ。ま
あ悪くない」
「委員長まじ発言がキモいわ」
「あたしはテストが潰れる方がいいー」
 彼女の唇が緩んだので、僕の強がりは成功したようだ。ほとんど本気だが。
 いつものように彼女はほとんど喋らず、2人がお約束とギブスにラクガキする
姿をひっそりと眺めている。君もなにか書いていけばいいのにという願望は叶わ
ず、友人2人だけがひとしきり騒ぎ、小一時間程で帰って行った。
 静かになった病室は、さすがに温度差で少し寂しい。そうたそがれていると。
「委員長、その、いいかな」
「吾川さん?」
 なぜか彼女だけ戻ってきた。驚く僕を尻目にカーテンを引いてベッドに身を寄
せる。レモンに似た青い清涼感とほのかな押入の匂い、冷静な自分が薬草だろう
かと辿り着きそれどころではない自分が硬直する。そんな僕の混乱を余所に彼女
はそっと、呟いた。
「あたしのせいなの」
「なにが。どうして。運転していたのは君じゃないぞ」
「委員長、あたしのこと、好き? ……ううん、誤魔化さなくていい。魔女を好
きになった人は、世界が排除しようとするの。そのひとの想いが強ければ強いほ
ど、反発が大きいの。このままじゃ殺されちゃう。あたし、委員長が死んじゃう
の、いや」
「そりゃあ僕も死にたくないが。そんな理由でばれたのか」
「ふふ。あのね、方法はふたつある。ひとつはとても簡単、あたしを諦めること。
死ぬよりずっといいでしょう? 命を懸けてまでする恋なんて、必要ないじゃな
い」
「なるほど。もうひとつは?」
「もうひとつは、体液の交換をすること。魔女の加護を得て、世界を諦めさせる
の」
「体液」
「血液の交換でもいいけど、委員長とは血液型が違うからちょっと危険かな。だ
から性交、セックス、だね。一度してしまえば、もう世界から狙われることはな
くなる。汚染と同じなの」
「そのどちらかを、選べと?」
 そんなの、答えはひとつじゃないか。
「君が好きだ。君としたい。死ぬのは嫌だし諦めたくない」
「でもね、こっちはそう簡単じゃないの。するのは、一度だけだよ? 恋人には
なれない。委員長があたしを好きなままなら、辛いと思うよ?」


魔法は万能ではない、けれど
万難を排し、想いを貫くための検討と奮闘。運命をねじ伏せ、愛を勝ち取る物語。

前提として、愛がある。形や濃淡は違えど、ここには確かな愛がある。恋愛感情だけではなくて、友情や思慕、信頼までも含めての愛。登場人物の、であるとともに、作者のまるたさんの眼差し、筆致にもそれは現れている。
主人公、圭は魔女の涼乃に恋をする。だが、魔女を縛るルールは残酷だ。どうしてこの世に魔女を存在させるのかというほどに。圭は言う、「僕は君を諦めない」。この一言に込められた、狂おしいほどの愛情と覚悟。ただびとである自身と、魔女である涼乃、互いを尊重し共に在るために何をすべきか、有言実行の人である圭の一途さと、涼乃のしなやかさが小気味よく、友達を応援しているように物語に没頭してしまう。
また、二人の友人たちや「運命」であるところの彼もまた、確立された人物像でもって物語に厚みを持たせ、彩る。
物語との心理的な近さは、こなれた地の文と会話文、違和感のないスムーズな運びによる。実際的で現実的、それゆえの説得力。恋愛ジャンルだからと一歩退いてしまう方にこそお勧めしたい。

――というのが文フリガイド9号に寄せた推薦文。がちがちに固いですが、つまるところ、すずのん可愛い! 圭ちゃんがんばれ! ディテール描写大好き! 結婚式呼んで! ということです。
序盤のえちぃ展開すら可愛く思える、まるたさんワールドにぜひ!
推薦者凪野基
推薦ポイントとにかく好き

真摯に愛し、前向きに生きる、それは運命への凄絶な挑戦
 魔女である少女・涼乃と彼女に恋をした委員長・圭。高校生の甘酸っぱい恋愛物語が始まるのかと思いきや、ひたむきな愛を以て静かに壮絶に運命と戦う人々の物語でありました。
 とにかく魔女という存在に課せられた宿命があまりにも過酷で、それでいて涼乃自身は健気で心優しい普通の少女なので、読んでいて可哀想でたまりません。好きな人の子どもを産むこともできない。好きな人に好きになってもらうことも許されない。あまりにも幼くして、望まぬかたちで処女を喪わなくてはいけない……。
 魔女として生きるために固く封印されていた涼乃の本当の心が、とにかく前向きで一途な圭によって解放されていく、その変化の過程が非常に可愛らしく、儀式の場面の二人の交合は一種の神聖ささえ感じさせるほどです。
 周りで見守る友人たちもキャラが立っていて、彼女たちに感情移入して二人の人生を応援したくなってしまうこと請け合いです。
 最終話「僕らの幸福論」がわけても素晴らしく、個人的には圭と、涼乃の「運命」大橋との間に芽生えていく不思議な絆にとても魅力を感じました。
 どうしようもなく襲い来る未来のことを考えて、ともすれば悲しくなりそうな読後感も、圭のポジティブシンキングのお陰で「きっとなんとかなるんだ」と信じることができる。そうでなくても、二人が幸福に生きた時間は確かに存在したことを読者はわかっている。
 本を閉じるとき、「これで良かったんだ」という何とも言えない充足感が心に残ります。
推薦者並木陽
推薦ポイント物語・構成が好き