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「それがおまえの夢か」 |
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私はどうしてこの作品にこんなに弱いのか。七都が「私は守りたい」と叫ぶたびに涙腺がゆるむ。いつの間にか、七都ではなく聖羅に近い立場にかったのだなあと今更思った。社会運動に関わったことがあると、純粋さが眩しすぎて泣けます。もうこんなこと言えない大人になっちゃったと思いました。 そしてこの作品は母娘の物語なのです。「母に愛された娘」の七都から、「母に愛されなかった聖羅」は期せずして母を奪うことになり、その母に成り代わるように、七都を愛することで、自分を満たそうとする。この母娘の繋がりの環は、愛というか呪いというか……。 母娘は個人を超えて、何代も続く因縁や社会構造の中で、囚われてなんとか愛を探そうとする。私なんかは「でもな、悪いのは大将軍やろ?ものわかりいい父親ヅラしやがって」と怒るわけですが、聖羅は「父の娘」だったわけで、そこから「娘の母」になろうとする。これえぐい話です。 私が「七都」を愛読するのは、社会と繋がりのある作品だからです。個人の想いを超えた、歴史や社会構造のの中でもがく人間の姿が、私は好きです。矛盾や解決不能な問題があるからこそ、答えのない問いを小説は突きつけると思います。 その反面、出てくる男性キャラが、みんな強くてチートなところが、正しく少女小説だと思いました(笑) これはね、お約束ですよね。そこがないと、ただの辛い小説になります。きちんと萌えや甘さやゆるさも残してあるところが、読者にページをめくるモチベーションになっていて、良かったと思います。 | ||||||||||
推薦者 | 宇野寧湖 | |||||||||
推薦ポイント | 人物・キャラが好き |
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恥ずかしながら、これまで《少女小説》のなんたるかを私は存じ上げませんでした。少女、と呼ばれるような時期に触れる機会を持たなかったのです。それがあるご縁でこの『七都』を拝読した時、鮮烈に理解しました。苛酷で、熾烈な運命を気高く生きる少女たちの生き様――これぞまさしく、《少女小説》であると。 舞台は厳粛たる身分制度の敷かれた世界。第七都と銘打たれたその街は最下層の民が住まう場所と定められ、支配者たちの領域・第一都を始めとする上位階級者たちから奴隷のような扱いを受けています。その第七都 を解放しようと立ち上がる革命軍――レジスタンスと第一都の軍が争いを繰り広げる、そういう時代に生を受けた英七都(はなぶさ ななと)がこの物語の主人公です。 七都の母はレジスタンスを導く勝利の女神・英凛々子。しかし凛々子は第一都の残酷なる赤将軍の手により、戦場に命を散らします。父も既に亡く、唯一残された家族である姉の優花も第一都の男にかどわかされ、七都は天涯孤独の身に。相次ぎ家族を喪った悲歎と、自らより革命に命を捧げた母に対する激憤、相克する情動に心身を苛まれた七都に手を差し伸べたのは、謎多きシスター・聖羅でした。ふたりは次第に心深く絆を結び合うのですが、その間に存在した因果は彼女たちを非情な運命に誘うのです。 繊細な心情描写、幾重に も絡み合う人間関係、その中で交わされる恋情、慈愛、思慕、嫉妬、憐憫、絶望、希望――数えきれないほどの生の心情。激動の時代に生まれ、その中を駆け抜けなければならなかった彼女たちの生命が、ありありと目に浮かぶほどの現実味を持って描かれています。 母への複雑な想いを昇華させ、自らもレジスタンスの一員となることを選ぶ七都。その彼女を護ることを存在意義と定めながら、秘めた過去の重責に葛藤する聖羅。身分のために受ける屈辱に晒されながらも、凛然と生きる優花。少女たちの意志と覚悟、その生き様は息を呑むほど凄絶です。その周囲を彩る男性陣も個性的で、魅力に輝いています。 戦乱の世に力強く生きる彼女たちの姿に自然と感情移入し、そのしあわせを切に願わずに はいられない――そんな熱量を持った圧巻の《少女小説》、それが『七都』です。 全五巻中第四巻までが発行済み、最終巻が今秋リリースの予定。このドラマチックな少女浪漫革命譚の結末を、ぜひお見逃しなく! | ||||||||||
推薦者 | 世津路章 | |||||||||
推薦ポイント | 人物・キャラが好き |