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少女は寂しくありませんでした。スイッチを入れれば、いつでも【彼】に会えるのですから。ヘッドフォンをかぶったら、再生ボタンを押すだけ。 |
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少女とは、7歳前後から18歳前後の女子を指すという。その10年弱の間にどんなことが起こるのだろうと考えたとき、女性の一生を形作るような転機と呼べるものがこの期間に集中している。それは私たちが意識していようといまいと、誰のもとにも平等にやってくる。少女は、ある意味ではいくつもの通過儀礼の象徴であると考えられる。 本作『プエラの肖像』は、キダサユリさんによる「少女性」をテーマにした短編集だ。わたしがまず心を惹かれたのは、物語を追うごとに、「少女」が変化していくということ。全5話から成る物語のなかで、少女は、幼く庇護から抜け出せない存在、自我を持ち始めた存在、第二次性徴を迎えた存在、受胎する存在、そして愛に目覚める存在と、いわば成長していくのである。 また、キダさんは「ヒトでないものとの交わり」を描くことに長けた作家であり、それは本作でも遺憾なく発揮されている。少女の成長の過程にかかわってくるのは例えば卵であったり、鳩であったり、ウサギであったり、またはミュージシャンへの憧れというかたちないものであったりする。注目してほしいのは、ここに「生身の男性」という存在がないということ。ヒトでないものによって、少女は大人になっていく。 これは何を意味するのだろう。それを考えたとき、わたしのなかに、ある本質的な問いが浮かんだ。 それは、少女を規定するものは何であるのか、あるいは、少女とはそもそも規定され得るものなのだろうか、ということだ。わたしたち女は、もしかするとヒトの力が及ばないところで「少女」であったのではないか。それはある種、現実から離れたところにいる時間、ひょっとすると、絶対的に聖なる存在であった時間。キダさんはそれを示しているのではないか。ここに描かれているのはぎりぎりまで突き詰められた少女性であり、この本によってわたしたちは、否応にも自分がかつて少女であった時間のことを考えずにはいられないのだ。 大人になったわたしたち、少女から抜け出たわたしたちは、今、どこにいるのだろう。 迫ってくるのは、手に入れたものは、成長か、現実か、あるいは、破滅か。 | ||||||||||
推薦者 | きりちひろ | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |