尼崎文学だらけ
ブース 大衆小説3
夜月書房
タイトル ヨルノオト
著者 綾月宮司(夜月書房)
価格 500円
カテゴリ 大衆小説
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紹介文
『日常の中の非日常』

本作は皆が生きている日常の中で起きる非日常な出来事が物語となっております。

毎日、閉店セールをやっている店の謎。

スマホに勝手にダウンロードされていた謎のアプリ。

毎日の通勤に使っている路線にいきなり現れた謎の駅。

三つの物語で主人公達に起こる非日常とは?
これは少し不思議で奇妙な物語。

「あの店ってずっと閉店セールだよな」
「……あぁ」

 盆休みに帰郷した俺は久々に会った友人との会話で、その店の存在を思い出した。
 大きな国道沿いにある小さくて古びたビデオショップだ。その店があったのはいつからだろう。

(中略)

「ここの店主さんですか?」
「はい、そうですよ」
 俺の問いにその店主は明るく、人懐っこい笑顔で答えた。見た感じの印象としては気難しい人物には思えない。そのことを瞬時に察すると、俺の中の好奇心が疼いた。
「あのー、俺ってここ地元なんですよ」
「ほう、帰郷か何かですか?」
「そうです。で、少し聞きたいことがあるんですけど」
「何でしょうか?」
 俺の発言にその店主は目を丸くして聞き返す。怪しんでいる、というよりは驚いている――そんな感じだった。
「ここってずっと閉店セールしてますよね?」
「ずっと?」
「いや、だって……俺が小学生の頃から、ずっと閉店セールですから、かれこれ十年以上やってることになりますよ?」
「はぁ……」
 俺の発言を聞いても、店主は特段変わった様子は見せない。何というか……俺の言っていることの意味が解っていないような困惑した表情を浮かべている。
「えっと……」
 その表情を見て、俺も困惑してしまう。苦笑いだとか、もしくは叱られるかも、と予想していたのだけども。
 互いに困惑した表情で見つめ会った後、
「あはは、すみません。変な質問しちゃって」
 俺は、苦笑いを浮かべてそう言うと帰ることにした。きっとこの店も、『閉店セール』という言葉で客を釣り、安く売っているように見せかけているだけの店だろう。それで経営が成り立っているのだから、いつまでも『閉店セール』は続くのだ。それぐらいの予想は誰も出来るのだけど、あえて聞いてみたかったのだ。そうすれば自分の中での笑い話が一つでも出来るかも、と思ったから。店主から実際に聞ければ一番良かったのだけど、そう上手くはいかない。
 ――この店主の表情は俺が見抜けないほどに、とぼけた表情が上手いのだろう。
 そう思って、店主が演技を続けている内に去ろう、と出入口に足を向けると、
「あ、けどこの店は三日後には閉店しますよ」
 店主がそう言ったので、俺は驚き振り返り彼の顔をもう一度見た。そこには困惑した表情は消え、店主が満面の笑みを浮かべていた。