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午後六時を過ぎても、日射しは相変わらず暖かく学舎を照らしていた。 |
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文芸部の同人誌原稿のため、千尋は校舎裏の桜について調べることにした。『人喰い桜』との謂れのあるその木に、親友二人が翻弄されながらも挑む様を妖艶な描写で綴った「魔櫻」。普通の女性と、テディベアを恋人だと言う美しい少女のやり取りから、孤独と純愛を滲ませる「サンドイッチとテディベア」――。 既存の本を作品内に登場させるという条件で書かれた、六人の作者によるアンソロジーです。書き手によって取り上げる本も、その解釈も、作品ジャンルも異なりますが、しかし、どの作品もどこか物寂しい雰囲気を纏っています。それは、人が小説や映画、詩などの物語に接する時、自分の内側のやわらかい部分に触れてくるような哀愁を求めているからではないか、などと考えてしまうほど、それぞれに美しく繊細に描かれています。と言っても、ひとつひとつの作品カラーは六者六様。飽きることなく最後まで読み進められることは間違いありません。上記以外にも、やわらかな方言が印象的な「魔法が生まれるとき」や、嫌な男の感情の機微を描きつつ、ラストでハッとさせる「ひとり」など、六人の作者が六つのアプローチで「本」に向き合った、ペーソスと時にユーモアの漂う素敵な作品集です。 | ||||||||||
推薦者 | zooey | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |