出店者名 温室
タイトル 橋向こう、因縁の町
著者 まゆみ亜紀
価格 800円
ジャンル JUNE
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紹介文
カバー付き文庫 182ページ R18

※文学フリマガイドブック 2017年(通算第10号)に掲載していただきました
※長く在庫として持っていた本のため、カバーに薄い傷などがある場合があります。そのため今までの頒価から100円引いての頒布となります。ご了承ください

【ひとでなしのアラサー×振り回される高校生のBL】
 性的なものごとを厭う高校生・佐和野雪路はひょんなことから体を落っことして幽体離脱を果たしてしまう。体を拾ってくれたのは悪魔的な魅力を持つ色男・糸江さん。彼は拾得物の報酬として、“体を一割”要求する。
 突拍子もないそんな出会いが、雪路の因縁の物語のはじまりだった。生者と死者の行き交う色町〈橋向こう〉で魅惑のアラサー男、伝説のポルノスター、色情霊たちに振り回される雪路の明日はどっちだ。

 ぼくの通う高校は、町の北端にある。家がほぼ南端なので、町のまんなかを横切る電車に乗って通学しているわけだ。
 住宅街を抜けると、電車は堤防に沿って走る高架にあがる。その瞬間一息に視界が開け見晴らしもきくけれど、その解放感を手放しで喜ぶことは、ぼくにはできない。
この町――あかる町は、大きな川をへだてて東西に分かれている。東は人口が増え出してから若い家族が家を建て、だんだんと住宅街になった新あかる町。ぼくの家や高校があるのもこちら側だ。
そしてあかる大橋をへだてた西側。眼下に見えているきらびやかなネオンの町を、ぼくたちは〈橋向こう〉と呼ぶ。朝の白い光のなかで、向こうの町はまだ眠っている。彼らが目覚めるのは夜だから。
 電車のなかからでもわかる。立ち並ぶのはソープにキャバクラ、ラブホテル。いかがわしい店の見本市だ。そしてその合間に、てんてんと、真っ青な提灯が見える。あれを吊るしているのは死者相手に春をひさぐ店だ。旧あかる町、古くは江戸時代から人々の無聊をなぐさめてきた色町だが、ほかと一味違うのは生者のみならず死者も相手にするところだ。
ゆうれいにもときに情事は必要なのだ、と言ったのは母だったか。 彼女は、〈橋向こう〉の娼婦だった。そしてぼくはそれを厭う。伝説のポルノスターが平気で夢に出てくるようなただれた身の上を厭い、常に清廉でありたいと願っている。
だからあれは因縁の町だ。〈橋向こう〉、因縁の町。ぼくはいまだ眠れる極彩色の町を強く睨みつけた。