ぼくの通う高校は、町の北端にある。家がほぼ南端なので、町のまんなかを横切る電車に乗って通学しているわけだ。 住宅街を抜けると、電車は堤防に沿って走る高架にあがる。その瞬間一息に視界が開け見晴らしもきくけれど、その解放感を手放しで喜ぶことは、ぼくにはできない。 この町――あかる町は、大きな川をへだてて東西に分かれている。東は人口が増え出してから若い家族が家を建て、だんだんと住宅街になった新あかる町。ぼくの家や高校があるのもこちら側だ。 そしてあかる大橋をへだてた西側。眼下に見えているきらびやかなネオンの町を、ぼくたちは〈橋向こう〉と呼ぶ。朝の白い光のなかで、向こうの町はまだ眠っている。彼らが目覚めるのは夜だから。 電車のなかからでもわかる。立ち並ぶのはソープにキャバクラ、ラブホテル。いかがわしい店の見本市だ。そしてその合間に、てんてんと、真っ青な提灯が見える。あれを吊るしているのは死者相手に春をひさぐ店だ。旧あかる町、古くは江戸時代から人々の無聊をなぐさめてきた色町だが、ほかと一味違うのは生者のみならず死者も相手にするところだ。 ゆうれいにもときに情事は必要なのだ、と言ったのは母だったか。 彼女は、〈橋向こう〉の娼婦だった。そしてぼくはそれを厭う。伝説のポルノスターが平気で夢に出てくるようなただれた身の上を厭い、常に清廉でありたいと願っている。 だからあれは因縁の町だ。〈橋向こう〉、因縁の町。ぼくはいまだ眠れる極彩色の町を強く睨みつけた。
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