出店者名 新天使出版会(ヤミークラブ)
タイトル 零点振動3
著者 宇野寧湖
価格 100円
ジャンル 大衆小説
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紹介文
A5表紙モノクロ、本文モノクロ24頁、オンデマンド印刷、100円。

怪事件を捜査中の新人刑事・羽鳥の前に、同級生を殺害したと告白する少女が現れる。 だが、彼女はどうやって殺したのかは覚えていないと言う。 記憶をめぐる謎を追ううちに、羽鳥は頭痛に苦しみ始め、精神科医の槇に……

【長めの本文サンプル】 http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6510890&from_sid=1583931574

【サンプル】

 中川花梨(なかがわかりん)の葬儀は土砂降りの雨の中で行われた。屋根に激しくぶつかる雨音で僧侶の経を読む声もかき消されてしまいそうだ。小さな葬式会館には色とりどりに染髪した若い男女が集まっていた。十七歳の突然の死に、みな、打ちひしがれていた。泣きじゃくっている女の子たちも多い。誰かが「涙雨だ」とつぶやくと、あちこちからすすり泣く声があがった。
 羽鳥(はとり)と藤波(ふじなみ)はできるだけ目立たないように、一般弔問客に混じって焼香を上げた。中川の死は、管轄する地元の署によって「自殺」と結論付けられている。
 しかし、捜査一課特殊捜査班は独自捜査の継続を宣言した。特殊班が追っている謎の〈震える男〉事件の手がかりは、依然として見つかっていない。唯一、中川が〈震える男〉事件に使われた薬物の入手経路として推測されていた。しかしながら、彼女の遺体の解剖結果でも、該当の薬物は検出されなかった。今回の葬儀にも、薬物に関わる人物が出席している可能性があるため、羽鳥と藤波は参列していた。
 壁沿いに立っていると、中川の通学していた鞠小路女子高等学校の制服を来た少女たちが目の前で喋り始めた。声はひそめているが、高い声は刑事の耳にもよく聞こえた。
「やっぱり三枝(さえぐさ)さん、来てないね。あの子、大丈夫なの?」
「もともと病気だったんでしょ? 変だったじゃん。あの子、中川さんの真似してさ」
 「三枝」という名前には聞き覚えがあった。中川花梨が校舎から飛び降りた日、校門から駆け出してきた生徒だ。黒髪で真面目そうな少女だった。女子生徒たちはさらに声量を落として囁き合った。お経に入り混じって聴こえにくいが、この単語は聞き取れた。