理紗人と佐布由はどちらからともなく窓辺に腰を下ろした。空には無数の星が瞬いていた。十字に並んだ星を見つけ、理紗人は指を差す。
「白鳥座だ」
「はくちょう?」
佐布由は不思議そうな顔で首をかしげた。
「星座だよ。あのあたりにある明るい星をつなげると、十字になるだろう? 白鳥が翼を広げて飛ぶ姿に似てるって、昔の人は考えたんだ。南がくちばしだよ」
懸命に説明するが、佐布由の表情は変わらない。どうやら、そもそも白鳥が何かわからないようだ。
「白鳥は真っ白な翼の大きな鳥だよ。首が長くって、水辺に住んでるんだ。渡り鳥っていって、冬になると北の大陸から海を越えてやって来るんだよ」
「ふうん、理紗人はすごいね。文字も書けるし、物知りだ」
気を悪くさせたかと、理紗人は慌てた。
「そんなことないよ。知ってるって言っても、実物を見たことないし。お酒を一杯呑んだだけでこんなになっちゃうし。佐布由の方がすごいじゃないか。三味線、あんなふうに人前で弾けるなんて、羨ましいよ」
褒められて、佐布由はくすぐったそうに笑った。そんなふうに無邪気な表情を見たのは初めてだった。
「はくちょう、いつか本物を見たいね」
頷きそうになって、理紗人は現実に戻った。また、とか、いつか、とか、理紗人と佐布由の縁は不確かな偶然の上に成り立っている。朱臣たちの宴が終わったら、また会えない日々が始まる。次にいつ会えるのかも定かではない。幻のような未来に約束を託すのは辛かった。
「……離れたくないな」
溢れる気持ちが、理紗人の口をついて零れ出た。右手で佐布由の左手を取り、指を絡めた。こうして手をつないでいても簡単に離れてしまう。もっと強く固く結ばれたかった。
つないだ手を寂しそうに見つめ、佐布由が囁いた。
「二人で、ひとつになりたいね」
「どう、やって?」
顔を上げた佐布由と眼差しが絡み合い、互いに引き寄せられて唇を合わせた。触れるだけでは足らず、深く口付ける。どちらのものかわからなくなった唾液を呑み込んだ。溶けてしまえばいい。互いに形を失くして混ざり合えば、ひとつになれる。
「理紗人、大丈夫か」
突然、襖越しに声をかけられ、理紗人を支配していた熱が一気に吹き飛んだ。理紗人と佐布由が体を離すのと同時に、襖が開けられた。逆光のせいで朱臣の表情は見えなかった。
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