出店者名 今田ずんばあらず
タイトル 【編纂】日本鬼子さん 一ノ巻、心
著者 歌麻呂(今田ずんばあらず)
価格 700円
ジャンル ライトノベル
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紹介文
どうしてこうなった――。
オタク系女子高生、田中匠は嘆いていた。
今朝からどういうわけか、「乳について語りてえ」のであった。
本来女性の部位は平等に愛したい彼女であったが、売れる道具のように乳を扱う同人誌をむさぼり食う始末。

「あなたは心の鬼に憑りつかれているのです」
困り顔(しかし同人誌を読んでエロオヤジ顔)の匠の元へ、一人の少女が颯爽と現れた。
紅和服に鬼の角。その名も日本鬼子。
……コスプレ少女? いいえ違います。鬼を祓う鬼の娘、なのだ!

世界で唯一の日本鬼子二次小説本。

A5 214P

「心の鬼は月に偽装している!」
「はいっ」
 鬼子の目が真っ赤に燃え上がる。薙刀を編み出し、空高くへと跳躍した。
 月に模した鬼が、危機を察知したのか、偽装を解き、姿を現した。
 嘘月鬼(うそつき)。薄黄の岩石質の球体に二本の角が生えており、目と口を思わせる三ヶ所の窪みがある鬼だ。
 心の鬼は鬼子の突きをかわすも、石突で叩き落とされる。そのまま鬼子も着地した。心の鬼が隠していた太陽が姿を見せる。
 黒、黒、黒。土も家も人も。黒、黒、黒。

(中略)

 鬼子と心の鬼の戦いは一方的だった。擬態という特性を見る限り、戦いを好まない鬼なのかもしれない。
 薙刀の切っ先が嘘月鬼の背を掠る。奴の動きを崩すにはそれで十分すぎた。
「萌え散れ!」
 心の鬼に斜めの直線が引かれると、岩石のそれは紅葉を舞い上げ、ずるりと巨体を滑らせた。裂けた嘘月鬼は委縮し、最終的には消え失せた。
 一件落着、といったところか。
 多分、勧善懲悪の物語だったら、ここで話は爽快に幕を閉じるのだろう。


「おお、お、鬼だ! 鬼だあ!」
 俺たちを案内してくれていた村人が奇声を上げ、鬼子を指差した。明らかに恐怖の対象として捉えられていた。
「何言って……あなた、私たちを歓迎するって、言ってましたよね?」
 鬼子の瞳に戸惑いの念が窺える。
「嘘だよ! そんなもの、嘘に決まってるではないか!」
 村人は目を大きく見開き、口をだらしなく開け、今にも気を失いそうだった。鬼祓いの姿のままでいる鬼子に気付いた他の村人も悲鳴を上げ、家の中に入ろうとする。しかしその家の中は穢れに満ちていて、混乱を生み出した。
「不作でもう生きてゆけぬ現実を見たくなくて、我が身に嘘を吐いた。他人に嘘を吐いた。やがて嘘に嘘を重ね、止むことを知らず……だからといって、村のみんなを巻き込む道理がどこにある? 鬼め、苦しむのはおれだけでよかろうに! 返せ! おれらの村を、返せ!」
 心の鬼は人間の負の感情に芽吹く。先の見えない不安や絶望が「嘘」の鬼に成ることだってある。