出店者名 おとといあさって
タイトル ビン詰め小説『ヨンコと四個のビン』(新装版)
著者 らし
価格 500円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
手のひらに乗るサイズの箱の中に、小さなビンが4つ入っています。
物語の中で、主人公の女の子は4つのビンを順番に開けていきます。
あなたも、実際に、4つのビンを開けて物語を追いかけていかなくてはいけません。

そのへんてこな仕掛けの先には、
いったい何が待っているのでしょうか。

ページをめくるかわりに、ビンの蓋を開けて物語を読む。
面倒くさいし、かさばるし、ちょっと楽しい?
得体のしれない物語を、得体のしれない様式でお読みください。

 ♪
 びん びん ビンのフタ開けば
 ジャジャーン ジャムが目を覚ます
 ぱんぱか パンが上手に焼けたら
 明日はとうさん 帰るかな

 調子はずれの鼻歌を歌いながら、ヨンコは朝ごはんの支度をしていた。おんぼろのトースターから食パンを取り出し、たっぷりジャムを塗りつける。今日のジャムはブルーべリー。ティースプーンのふくらみで押しつぶされた濃紺は、パンの表面に小さな宇宙空間を描いた。ヨンコが右手を動かすたびに、サクサクと小気味のいい音を立て、砂糖漬けの闇が広がっていく。
 ヨンコはまだ幼いが、だれよりも上手にジャムを塗ることができた。とうさんが長い旅に出て以来、数えきれないほどたくさんの朝をひとりぼっちで迎えてきたからだ。いわば留守番のプロフェッショナルである。

 ぴーんぽーん。

 ふいに玄関チャイムの音が響いて、ヨンコははっと顔をあげた。だれかがやって来るなんて、この家ではめったに起こらない出来事だ。
(いったいだれ?)
 もしかして、とうさん?
 イスを蹴って、ヨンコは台所を飛びだした。廊下には大小さまざまなジャムがところせましと積み上げられていた。イチゴにリンゴ、アンズにプラム。すべてジャム職人だったとうさんの手作りだ。ビンの山を崩さないよう注意深く避けながら、ヨンコは玄関へと急いだ。ドキドキ高鳴る小さな心臓。背伸びしてドアロックを外し、玄関扉を開け放つ。喉もとまで出かかった「おかえりなさい」の言葉――。
 だがそこには、朝の光に包まれて、タコみたいな姿のお兄さんが立っていた。


ヨンコと一緒に飛び込んで
小説を読むのに、ビンの蓋を開けたことがあるでしょうか。
これが、思った以上に楽しいのです。

蓋を開けると、ビンの中にぎゅっと詰め込まれた空間が
ぱっと目の前に広がります。
すぐに次のビンへ手を伸ばしたくなるところをぐっと堪えて、
わざとゆっくり蓋を閉め、読み終わったビンを丁寧に元の場所へ。
それから、コーヒーを一口啜る。

そうして心の準備を整えてから、再び濃縮された空間へと飛び込みます。
突きつけられた選択肢に、ヨンコは、貴方は、いったいどうするのか。

ヨンコと一緒に思いがけず壮大な物語に巻き込まれていくワクワク感を、
ぜひ体験していただきたいです。
推薦者きづき