スーパーからの帰り道、宇宙人の干物を見つけた。この身にはこたえる、しみる暑さの夕暮れだった。濃い水のにおいに暴力的な陽ざしが溶け出して、息をするたび焼けた味がする。風がないのがなお悪い。ふだんなら体が吹き飛ばされないから歓迎するけれど、いまはわだかまった熱い空気が皮膚に喰いこむようだ。ああ、このまま夏に負けてしまいそう。いいかげんにしなよお盆も終わるんだしさあ、とぶうぶう文句を言う。言う。もひとつ言ったところで見つけた。道ばた、コンクリートの塀に沿うようにして、べたんとのたくった宇宙人の干物。この時期にはたまに見かける。くらげ? ちがう。宇宙人。たしかに似ているけれど。 それをアパートまで持って帰ったのは、まあ理瀬ちゃんお盆だっていうのに毎日毎日会社通いで哀れだし、ちょっと楽しいことプレゼントしたいな、ぐらいの気持ちだ。いや、うそ、ほんとは出来心。ちょっぴり腹いせ。そもそも外出して暑い思いをする羽目になったのは冷蔵庫がからっぽだからで、冷蔵庫がからっぽだと夕飯が作れなくて、夕飯を作らないと理瀬ちゃんわたしのこと部屋に置いてくれないから。 いつになく大きい干物だったから引きずっているうち汗をだらだらかいて、なんでこんなことしてんだろと思いはじめたころ家についた。階段下で大家さんと出くわして世間話をする。陽気でおしゃべりな大家さん、干物を見ると目を細めた。あらもうそんな時期? お盆も終わりだしねえ。繭(まゆ)ちゃんももうすぐ帰るんでしょ? ええ、まあ、そういう決まりごとですし。 理瀬ちゃんの部屋が二階ならいまごろ干物を捨て置いていただろうけど、一階だからそうはならなかった。干物を玄関、ドアを開けてまっさきに目につく場所に置いて、というか放り出して、おさんどんをする。理瀬ちゃんが食べたいというから今晩は水炊きの予定だった。食材を洗ったり切ったり鍋につめたりし終えたところで、カセットボンベがないかと押入れに頭をつっこんでいたら、鍵の開く音、ただいまを言う声がして、それからぎゃっ、と悲鳴。どたどた走り寄ってきた理瀬ちゃんが、眼鏡の奥からわたしをにらみつけた。 「繭!」 「おかえり。ねえカセットボンベってどこ?」 「あんたなに拾ってきてんのよ!」 「宇宙人。なに星人か知ってる? カセットボンベ」 「あんなべろべろでっかいの、ベロンチョに決まってるでしょうが!」
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