「鳥類戦隊バードマン! このあとすぐっ!」 テレビ画面で、男が叫んだ。 何本かのCMを挟んで、軽快なメロディが流れる。 「戦え! 僕らの鳥類戦隊バードマン」 さきほどと同じ声で誰かが吠えた。 メロディのむこうでは、色々と爆発している。 「お嬢様」 大きなアンティークの椅子。そこに三角座りをしながら、ぼーっとテレビを見ていた鈴間屋アリスは、かけられた言葉に顔をあげた。茶色い長い髪の毛が、一緒に肩の辺りで踊る。 「ああ、白藤。おはよう」 日曜の朝、まだ七時半だというのに、白藤銀次はいつもと同じぴたっとした細身の黒いスーツを着こなしていた。いつ見てもそれだ。もしかして、それ以外の服持ってないんじゃなかろうか。 「おはようございます」 「どうしたの?」 元から背の高い彼だから、椅子に座った状態ではいつもより余分に見上げることになる。 だけど見上げることも悪くはない。下から見たら、短く整えられた黒い髪が、襟足の方で一カ所だけはねている。少しだけアリスは微笑んだ。あとでからかってやろう。 「お嬢様が日曜日の朝だというのにこんなにはやくから起床して、きちんと寝間着から部屋着にお着替えになり、ご自分の部屋からでていらっしゃって、団欒室でテレビなど見ていらっしゃる。すわ天変地異の前触れではないか。私はいま手が離せないから見て来てくれないか、とシュナイダーさんに頼まれまして」 銀次は整った顔立ちを崩すことなく、淡々と答えた。 「……それ、バカにしてる?」 アリスは意思の強そうなアーモンド型の瞳を細め、彼を睨みつける。 「まさか。早起きは素晴らしいことですね、と言っただけです」 「はいはい。どうせ私は休みの日はお昼になるまで起きてきませんよーだ」 ふんっと不満そうに形のいい鼻をならすと、アリスはテレビに向き直る。 「本当に珍しいですね。お嬢様が鳥類戦隊バードマンをご覧になるなんて」 アリスの座った椅子から二歩分後ろで、しゃきっと立ったまま銀次が問う。 「んー、ほら一応この番組のスポンサーだからね。一回ぐらい見ておこうかと思って」 テレビでは、特撮の戦隊ヒーローが頑張っている。 「さようでございますか」 「白藤」 「はい?」 「三十分そこに突っ立ってるつもり? 目障りだから座ったら?」
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