薫の車が停めてある駐車場まで二人で歩いて行き、車に乗った。 車が斉藤家に着くと、克巳は、借りていたマフラーをはずした。 「これ、ありがとう」 だけど薫は、マフラーを受け取らなかった。 「それ、お前にやるよ」 「えっ」 克巳はそのマフラーを見た。黒い毛糸で編んであり、「K」と白でイニシャルが編み込みしてあった。不揃いの網目が、既製品ではないことを物語っていた。 「お前もイニシャルKだから、いいだろ」 「でも、手編みだろ。誰かからもらったんじゃないのか」 「うん。昔つき合ってた子が、編んでくれたんだ」 「そんな大事なもの、もらえないよ!」 克巳は、マフラーを突き出したが、薫に押し戻された。 「いいんだ。昔のことなんだから」 「……そう……」 克巳は思った。もしかしたら、別れた彼女のものは、持っていたくないのかもしれない。 「じゃあ、もらうよ。ありがとう」 克巳は笑顔を作った。
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