「へっ?」 美鶴の剣幕に面食らったのか、ちとせは一瞬固まったが、 「……ゴスペルって、何?」 と、途切れ途切れに言った。 「知らない」 美鶴はきっぱり答えた。 ゴスペルが何なのか、さっぱり知らない。 でも、やりたい。 「美鶴ねえ」 ちとせはあきれたように言う。 「ゴスペルが宗教音楽だってことくらいは知ってるんでしょ?」 「知らない」 「知らない?」 ますます面食らった様子のちとせ。 そこにエレベーターが来て、美鶴とちとせは乗り込んだ。 「それでどうして、そこまできっぱりとやるなんて言えるの?」 ちとせの問いに、美鶴は答える。 「誰もやらないようなことをやりたいんだよ」 「だから、どうしてゴスペルなの?」 「いや、そこにポスター貼ってあったから」 「それだけで?」
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