出店者名 ヨモツヘグイニナ
タイトル カケラ vol.01
著者 泡野瑤子、かんじ、小田島静流、琉桔真緒、都岬美矢、伊崎美悦、孤伏澤つたゐ、KaL
価格 400円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
創作サークル「空想工房」の不定期刊行会誌「カケラ」創刊号です。

創刊号のテーマは「魔法使いの弟子」、ジャンルは「ファンタジー」です!!
 
なんと創刊号からゲストをお迎えして、小説6作と漫画&イラスト2作、60ページ超えの読み応えある仕上がりとなっております!
カケラ織り成す刹那の輝き、どうぞご堪能ください!!

 
【執筆者】
泡野瑤子(小説)「初弟子」(テキレボアンソロ掲載「刺青」の関連作です)
かんじ(漫画)「魔法使いの弟子達」
小田島静流(小説)「ホンモノの魔法使い」
琉桔真緒(小説)「ボクが魔法使いの弟子になるまで。」
都岬美矢(小説)「電器屋の弟子」
伊崎美悦(小説・イラスト)「大魔法使いは黒猫が大嫌い!」

【ゲスト】
孤伏澤つたゐ(小説)「魔術師ガルシア・アレインの弟子」
KaL(イラスト)「最後の弟子」
 ※掲載順です

 僕の先生は、うつくしい。長い黒髪と、夜天をうつした暗く澄んだ瞳。窓の外を見つめるとき、頬に青白い影を落とす長いまつ毛、誰かの名を呼ぼうとして止まっている朱い唇。魔術書を読む低くとろとろと流れる甘い声――待ち人を待って窓辺に頬杖をついている先生の横顔を、暇があれば僕は眺めていたい。ある角度からの先生の横顔は、うつくしい。
 ある角度から、と限定しなければならないのは、彼の顔の左半分には緋色の痣があるためで。その痣は、高位の魔術師であればすぐに気づくが、古代魔法文字を緻密に意匠した紋章だ。魔界の王の一人、深淵の王が、寵愛ゆえに彫りこんだという。窓硝子にうつる自分の顔半分を、先生は時々愛しそうに撫でる。気まぐれな深淵の王は、秘められた名を呼んだ程度では、この最果ての塔をおとなわない。先生は塔のてっぺんの部屋でずっと彼を待っていた。
 先生の名は、ガルシア・アレイン。最古の七魔術師の一人で、僕の師。僕はこの人と二人で、最果ての塔に棲んでいる。七魔術師が英知を寄せても、完全な球体にはならなかった世界の、最果てで。
 深淵の王を先生が待つように、僕も先生を待っている。
 ここを、世界の果てでなくすのはおまえの仕事だよと言って、杖をくれるのを。


   * * *


 僕の一日は、先生の部屋以外の塔の中をくまなく掃除することから始まる。僕が弟子になってこのかた、先生は塔の最上階の部屋から一度も出てきたことがなく、塔で僕が唯一立ち入れないのが先生の部屋だった。魔術師の棲処といえば魔術書や、術に使う鉱物、魔法生物の骨や内臓の干物なんかがほこりをかぶって散乱している印象があるだろうが、この最果ての塔は閑散としている。先生も僕も、魔術のために魔鉱石や魔物の血肉なんてものをほとんど使わないので。僕たちは呼吸や排泄と同等の必然で魔術を使わずに生存できないくらいに、この世の理に縛られている。そして、世界中に存在する書物をすべて記憶している先生は書物を持たない。書物は、僕が自分の足で探して集めたものが少しだけ。
 数少ない書物の頁をめくるとき、食事のとき、僕は、自分の指というものを使ったことがない。
 先生と僕が、自我なる不可視のものを外界と隔てるために使用している肉体なる器でしなくてはならないことは、ほとんどない。たとえば、そう――ああ、でも僕は先生とそういうことは一度もしたことがないのだった。
   『魔術師ガルシア・アレインの弟子』 孤伏澤つたゐ


来るべき日のための魔法使いとその弟子カタログ!
 ファンタジー小説を読んでいると「どうして私のいる世界はこんなにもつまらない世界なんだろう。この世界に行けたらいいのに」と思ってしまうことがよくある。どこへ行ったところで、私は私でしかなく、世界を救う勇者になるだけの根性も力もないし、かれに物語を揺るがすような助言ができるような思慮深く知性にあふれた魔法使いになれるはずもない。きっと地図に名前も載らないような片田舎で、魔王や竜の脅威を風のうわさで聞いておびえるくらいの、「なにもおこらない場所」で拾い仕事をして、「何物にもなれずに」買いたい本も買えずに読めずに毎日を過ごすんだろうな、っていうことは、深く考えなくてもたどり着ける結論なのに。
 でも、きっとそんな何も起こらない場所で、なにものにもなれないわたしは、夢に見るんだと思う。
 ある日、深夜、家の戸が叩かれて、魔法使いが訪ねてくることを。そしてその魔法使いが、「おまえを弟子にすることにきめた」と強引に「その現実」から連れ出してくれることを。

 『カケラvol.01』は、「魔法使いの弟子」をテーマにした小さな小説や漫画、イラストを集めたアンソロジーだ。
 この本に登場する「魔法使いの弟子」たちは、八作それぞれにみんなちがう。魔法使いになるつもりもなく、いきなり弟子入りすることが決まってしまったものもいれば、最初から師匠を大魔法使いだと知っている弟子もいる。住んでいるのがわたしの棲んでいる世界と地続きの現実世界の人もいれば、少しだけ異世界と重なった世界や、ここではない知らない世界で生活する人。弟子になるきっかけも、いい弟子なのか落ちこぼれなのかそんなところまで全くちがう。
 この八つの物語に共通していることは「魔法使いの弟子」であるということだけ。
 それは、「魔法使いの弟子になれる可能性」が八つあるってことじゃないですか。
 こんな世界なら、師匠なら、弟子なら、私もやっていけるかもしれない。そういう夢を、希望を抱けるということ。
 わたしはこの本を、異世界・魔法使いカタログとして読んだ。どんな異世界に生きたくて、どんな師匠がほしくて、どんな弟子にならなれるか……そういうことを、考えて検討して、来るべき日のために心の準備をするのだ。
 「こんな私じゃ、魔法使いになんてなれない」そう思うのは簡単だけど、私が生きている限り、可能性はゼロじゃない。
推薦者孤伏澤つたゐ