「しかしありがたい話だよなあ。泉がいなきゃ、俺ラーメン食えないし」 運ばれてきた味噌ラーメンに七味を大量にかけながら、尋人はそんなことを言った。 「なんですか急に」 「だってそうだろ。俺の身体じゃ、もう栄養剤とかの方が多分相当簡単だろうに、わざわざ普通にメシ食えるようにしてくれてるんだもん。サンキュ―な」 「……仕事ですから」 呟いた直後、泉の方にも味噌ラーメンが運ばれてきた。割箸を割ろうとすれば、尋人の手が七味の瓶を差し出してくる。 「ん」 「いえ、僕は結構です」 「お前いっつもそうだけどさ、かけても美味いぞ?」 「味の好みではなくてですね、香辛料は、その、」 「ニンジャ的にダメってやつだろ? 大丈夫だって。航さん辛いの大好きだし」 香辛料に限らず、匂いのきついものはなるべく避ける。習性ともいえる癖だったが、航が食べていると言われてしまえば断る理由がなくなる。 それに、と泉は思う。 薬味の類を好んで食べる尋人のことが、多少は分かるかもしれない。 「じゃあ、少しだけ」 一振りでも、かけた部分のスープはかなり赤くなった。 急に大丈夫か怪しくなってきた。生まれてこの方、食事で刺激物を摂取したことがないのだ。訓練は受けているので辛さへの耐性はあるはずだが、それも昔のこと。 意を決してスープを掬い、流し込む。 ごくり。 「どう? 美味いだろ?」 「……かっら……っ」 「えっ、大丈夫か? おい」 盛大にむせてしまった泉の背をさすり、水を飲ませてやって。 「すみませ、ん」 「いや、ごめんな? そうだよなあ、いつもこんな辛いの食わないもんな」 泉は情けないやら申し訳ないやらで涙目になり、レンゲを置いて顔を覆った。 「すみません……」 「いいんだって。こんなの慣れだし」 「……精進します」 「なんでだよ、いいよ。お前のそういう顔見るの久々で面白かったし」 写メっときゃよかったなーなどと冗談を言いながら、尋人は七味まみれの味噌ラーメンをすする。
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