実家は秘境と呼ばれるレベルの山奥にあって、中学でさえバスで一時間かけて山を下らないと通えなかったし、一番近い高校はバスと電車を乗り継いで三時間かかる。(ちなみにそのバス停まで徒歩二十分以上かかる)。おまけにこの春からそのバスが廃止になってしまうという悲劇。 そんなわけで高校進学のために家を出ないといけなくなった僕は、いっそのこと偏差値の高いところに行ってやろうと思い立ち、猛勉強の末に父の母校である澤ノ井高校になんとか合格した。 そして父の高校時代からの友人の家にお世話になる形で始まった僕の下宿生活の舞台は瀬戸内海に面した古くからの港町。地方都市としてにぎわう中心部からは少し外れたところ。 和菓子の老舗・湊屋。 一月半ばの寒い夜。この居候先の女将さんが倒れた。 幸い命に別状はなかったものの暫く静養するべきだということになり、少々強引ながらも九州の昔馴染みのところへ移っている。 この静養を強く勧めたのが湊屋の娘さん。母に楽をさせようと、自分が全てを引き継ぐつもりであれこれ手を出すのはいいんだけれど、最初からうまくいくわけがなく。 手近なところにいた高校の後輩である僕を巻き込んだ。 それからというもの僕は『本気で言ってます?』という台詞を、何度も発することになる。 (本文3Pより)
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