「笛」
その神社の境内にそびえる大きな銀杏の木には沢山の蛇が住み着いていた。 蛇達は巫女が吹く笛の音が好きだった。 月光が輝く夜、巫女が笛を吹きながら銀杏の下を歩いていれば、蛇達は枝に体を絡ませ、音色に合わせてうねりうねりと踊るように這い回る。 銀杏の葉が黄金に染まったある秋の夜のこと。 いつものように巫女の笛に聞きほれていた蛇達のうちの一匹が、幹を這い降りて、つい巫女のすぐそばまで行ってしまった。 巫女は驚いて持っている笛で蛇を打った。 蛇は死んでしまった。 次の日から巫女は高熱を出した。 七日七晩苦しんだ後巫女も死んだ。 そして、銀杏の木の上からは毎晩、幽かな笛の音が聞こえてくるようになったのであった。
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