出店者名 三谷銀屋
タイトル 日々是奇怪
著者 三谷銀屋
価格 200円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
さくっと読める幻想短編集です。

山奥の社に閉じ込められた巫女の少女の不思議な体験「神の山の巫女」
自らの肉体を樹木に変えて生きることを夢見る女性陶芸家のお話「樹木の恋人」
毎晩、夢の中に現れるどこか懐かしい異形の少年「山吹色の少年」

第二版を発行します!

旧版……消しゴムはんこの手作り感あふれる表紙。A5サイズ。残り1冊。ほしい方はお早めにいらっしゃってください。
第二版……画像の表紙。A6サイズ。たくさんあります。

「樹木の恋人」

「私の最後の作品が出来上がったから見に来てほしいの」
 いつもと変わりのない電話越しでのおしゃべりの合間に、先生が何気ない調子でそう言った。先生の声は相変わらず、低く柔らかで心地よく、僕の鼓膜を、揺りかごのようにゆらりゆらりと振動させる。
 3ヶ月前から先生が何か大きな作品に念入りに取りかかっているのは僕も知っていた。作っているのは、子供の背丈ほども高さがある大きな植木鉢だったはずだ。
 しかし、「最後」とはどういうことだろう。
 週末に先生の家に遊びに行く約束を交わして電話が切れた後、僕はようやく疑問を抱く。
 先生はもう陶芸家をやめてしまうのだろうか?

 先生は、僕が3ヶ月くらいの間通っていた陶芸教室の講師だった。
 先生は長い髪を後ろでキリリと結び、色とりどりの粘土と釉薬で汚れたエプロンを着て、生徒たちの作業机の間をハキハキと歩き回っていた。先生は、まだ柔らかい粘土をつまんで生徒たちの作品をほんの少し修正する。その手が白磁の陶器のように透き通っていて眩しかった。
 僕の作る不格好なカップや茶碗の作品数が4、5個程溜まった頃、とうとう先生は僕の恋人になった。その後、僕は陶芸教室をやめてしまった。
 先生が「最後」と言ったのは、もしかして僕との結婚を考えて・・・・・・ということか。しかし、僕はまだ先生にプロポーズもしていないし、結婚も考えてはいなかった。先生のことが好きなのは確かだが、僕にとってはあくまで行きずりの恋に過ぎなかった。

 約束通り、僕は次の土曜日の午後、先生の部屋を訪れた。
 先生はニコニコ嬉しそうに笑って僕を部屋に招き入れた。陶芸教室の時とは違い、先生は髪を無造作におろしている。
 部屋のフローリングの真ん中には、布で覆われてこんもりとした大きな物体があった。
 先生がさっと布を外す。
 口が広く開いた大きな壷には、なまこ釉という深い紺色の釉薬が全体的にかけられていて、その上には、星を散りばめて流したような光沢のある銀色の模様が天の川のように浮き出ていた。