トイレの扉を開くと、そこはジャングルだった。 「……どういう事?」 甲高い鳥たちの鳴き声、むわっと香り立つ草木の匂い。少し柔らかそうな土をつま先で踏むとぐにゅっという感触がした。 あまりにリアルすぎる感覚に、夢にしてはおかしいと思う。いくら両頬を抓っても目が覚めそうにないし、思いっきりやりすぎて指先も頬も痛い。 「いやいやいや、ありえないでしょ!」 夢ではなければ現実? だがトイレの扉を開けるとジャングルが広がっているような現実などありえない。ひとまずトイレの扉を閉めて考えてみる。学校から帰ってきてセーラー服のままベッドに倒れ込んだ所までは覚えている。そこから先が思い出せない。ならばやはり夢なのだろう。もう一度彼女は扉を開ける。やはりジャングルだった。 「……仕方ない、覚めるまで付き合うか」 はぁとため息を一つつくと、彼女はトイレスリッパを履いて扉の外へと出る。目の前に広がる緑の世界。本やテレビでしか見た事がない世界だ。なのに、とてもリアルに感じる。 好奇心に負けて、扉から離れて二、三歩歩いて振り返るとトイレの扉は消えていた。もう後戻りはできない。唐突にジャングルに放り込まれた彼女は仕方なく歩くしかなかった。
歩けども歩けどもジャングル。全てが同じ景色に見えてくる。夢なら早く目が覚めて欲しい。そう願うが、額から流れてくる汗を袖で拭う度に、あまりにリアルな感覚に実は寝てる間に誘拐されてジャングルに放り出されたのではと思う自分もいる。 夢と妄想の間でげんなりしていると、茂みから何かがゆっくりと出てきた。 ソレはライオンの頭をしていて、虎の体をして蛇の尻尾を持つ不思議な動物だった。見たことがない生き物に驚いて見つめていたが、その獣が舌なめずりをした瞬間、彼女は血の気が引いた。ヤツは自分を食べる気なのだ、とわかったからだ。 「な、何なのよ……早く夢なら覚めなさいよー!!」 逃げたくても腰が引けてうまく動けない。獣は嬉しそうに、間合いを取ることなく飛びかかってきた。こんなわけのわからない状態で死ぬのか、絶対嫌! 泣きそうなっている瞳をぎゅっと閉じるしかなかった。
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