眩む光。それから? 声。順番は、たぶん。蓋が開いたんだというのはだいぶたってから。マーナが泣きながら抱きついてきたので、外にいるって気がついた。 その光がササヅキのランタンだとわかったのは次の村で状況を明を求められてから。自分の手も見えない箱の中で、隣のすすり泣きやノックの音だけが意識を戻した。そこまで衰弱してなかったので3〜4日のことだろう。だけどそのあいだ膝を抱えて箱の中で、しゃべることも排泄を我慢することもできなくて早くに意識は飛んでたと思う。――自分の境遇についてあんまり考えたいような待遇じゃなかったからね。
あたしが生まれる前から戦争が続くこの国では、『うまくやった人』と『搾取されるだけの人』の貧富差が地域差で定着していて、あたしの村はもちろん後者。口減らしに女工として雇われていったのは村でもあたしの他に5人はいた。マーナ以外の子はたぶん予定通り紡績工場に行ったと思う。 ともかく、あたしは朦朧とした現実逃避から意識を取り戻して、軍人らしい人の背中を追った。どうやら助けてくれたらしい。けど、助かったのかな? 次になにが起こるのかわからず、残りの箱から他の子たちが取り出されるのを見つめていた。 「お前らどうした? なにが起きたかわかるか?」 残念ながら、その質問に答えられた子はいなかった。 「……あん? なんじゃこりゃ、糸か? 縫われてんのか。うええ、えげつね。悪いが糸切りバサミは持ってねえんだ。次の村までそのままだがナイフじゃ引きつれるからな、我慢しろ」 あたしたちの唇には1ヶ所、上下を縫い合わせたところがあって言葉は出せなかった。 「全部で10人か……。まあ、まっとうな所行じゃねえのは確かだな。お前らが積まれてた荷馬車は車軸がイカレて走らない。この面子で野営は無理なので夜通し歩くぞ。幸い街道は広い。この時間にゃ他の馬車も通らないだろうから真ん中いける。少しはマシだろ。まあ、ゆっくりな」 たまたま近くにいたあたしの頭が撫でられる。 獣避けの煙を燻して、あたしたちに順番に浴びせさせる。ミントがすごくきつくなったようなもので臭かったけど、たぶんあたしたちは相当臭かったはずたから軍人さん――ササヅキはもっと臭かっただろうなって同情する。10人もの人数が箱の中で汚物まみれだったのだ。 まだ夜深い街道沿いの森縁で、でもランタンは導くように揺れた。
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