出店者名 cieliste
タイトル コロシアイ
著者 壬生キヨム
価格 200円
ジャンル 詩歌
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紹介文
既存の漫画・アニメ・小説などに萌えたエネルギーを短歌の形にぶっこんだ短歌の本。

■目次
義兄の才能

メルカトル鮎が動いてくれない

完全版 黒ねこのしっぽを切った話



兄の才能


■参考文献
High&Low
ミステリ(麻耶雄嵩作品)
よくないおしらせ
俺以外イケメンのおしらせ(自主二次創作)

完全版 黒ねこのしっぽを切った話


それが何か理解できないだけでなくやってはいけないことをしている

黒ねこのしっぽを切ったら目に見えるものが正しく思えてきたのだ

黒ねこのしっぽを切ったら朝食を食べるとそれだけ元気になるのだ

黒ねこのしっぽを切ったら立てかけておいた輪っかを盗まれたのだ

黒ねこのしっぽを切ったら正面がどちらかわからなくなったのだ


黒ねこのしっぽを切ったらわからない番号ばかり電話が来るのだ

良い茶葉をポットの中で踊らせて犯人のことを考えている

黒ねこのしっぽを切ったらEメールを送っても送っても戻ってくる

黒ねこに許しを請いに出かけたが夕方なので道が違った

観覧車にたった一人で乗り込めば犠牲は私だけで済むのだ

黒ねこのしっぽ自体は切ったとき”私ではない”と言って消えた


片耳でそそぐシュバルツカッツにはずっと前から目を向けられない

夜になればどうせどちらかわからない後ろが前でもおんなじことだ

大切なひとが犠牲になってでも一生ぐっすり眠れなくても

幸運をもたらしたのが自分だと思ってもみない黒ねこだった

いつのまにしっぽの生えた黒ねこが他人んちの子として眠っている

黒ねこのしっぽを切った現場からそう遠くないところにある墓


寂しくて強がりの女の子をとじこめた歌集
「わからないことをわからないまま書く」のは、天才の所業だ。
それを言ったら、詩歌は本質的にはむき出しの才能の勝負だと思っている。
「天才という言葉を軽々しく使うな」と大学のころ教授に言われたことがあるけど、
軽々しくない天才が存在するのも事実だと思う。
「才能とはつまり運のことだ」と、ある漫画に書いてあった。
そう考えると、詩歌における天才というのは、言葉に愛されている人のことなのかもしれない。

さて、壬生キヨム歌集「コロシアイ」である。
一言でいうと、不思議な歌集。
でも、とても好き。
どこが好きかを尋ねられると答えるのが難しいのだけど、例えばこの歌。

思い出を作りに行くのだ最初から記憶としてしか残らないもの

とても悲しくなってしまう。
「コロシアイ」は、キヨムさんの短歌は、ポップで、かわいくて、
なのにその裏に悲しさがある。
強がっているけど、ほんとうはこわくて、怯えている。

表紙こそ明るくて、短歌も一見明るいのだけど、
中身はどっちかというと悲恋とか別離に近い、と思う。

「コロシアイ」という歌集自体が、そういう弱さをはらんだ
ひとりの等身大の女の子の姿なんじゃないだろうか。
そんな話をいつか書いてみたい。
書いてみたいのは、それを読んでみたいからだ。
推薦者にゃんしー