出店者名 cieliste
タイトル よくないおしらせにいたる
著者 壬生キヨム
価格 400円
ジャンル JUNE
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紹介文
☆こちらは2011年発行「よくないおしらせ」に書き下ろし後日談を追加した新装版です☆
(「文庫版」とは内容が異なります)


あらすじ
朝雛雅人は、いつものように鏡に呼びかける。
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番美しいのは誰?」
いつも、「それはあなたです」と答えるはずの鏡が、その日は違った。
「それは白鳥七生です」
雅人は、白鳥七生を殺すことにした。

一方そのころ白鳥七生は、ちょうど、今死ぬか、長良川で鵜飼を見てから死ぬか考えていた。
そういうわけで、二人は青春18きっぷで鵜飼を見に行くことになった。

第一話

 夕方の東京駅は夏休みを遅らせた行楽客や、サラリーマンや、塾帰りの子どもたちでごったがえしていた。七生は、もしも幽霊になったらここで行き交う人を観察しているだけでも退屈はしないのだろうと思いながら、受け取った切符をよく見たら、それは青春十八きっぷだった。
「って、鈍行で行くつもりですか!?」
 思わず抗議すると、目の前の手足の長い男は何か文句でもあるのかと言いたげに七生を睨んだ。彼は行くぞとだけ言って踵を返し、東海道線の乗り場へと向かった。七生は彼に連行されるような気持ちでついて行った。
 そういうわけで、七生は死ぬ前に一度見てみたいと思っていた岐阜の長良川鵜飼を見に行くことになった。
 青春十八きっぷで、見知らぬ男と。

(これで心置きなく死ねる……か?)



 白鳥七生は都内の大学の学生部に勤務する事務職員だった。今は夏休みなので学生の姿は少ないが、七生はいつものように朝九時に出勤して、いつものように少し残業をして仕事を終えた。七生が心を寄せる太田さんも、丁度帰るところらしかった。駅まで一緒に歩こうと言われたけれど、七生は忘れ物をしたふりをして彼と別れて、気がつけばそのまま図書館棟の屋上に上っていた。キャンパス内で一番高い場所から沈みかけた夕日を見ていたら、どうしようもなく苦しくなって七生はぼたぼたと大粒の涙を流して泣いた。
 もう死んでしまおうと思って下を見るとひと気は無く、今ならちょうどいいとさえ思った。
 盆を過ぎたとはいえ残暑は厳しく、涙は汗と一緒にべたべたと七生の肌にくっついた。泣きながら飛び降りたと知られたら恥ずかしいので、涙が止まるまで待とうと思っていたらガコンという音がして、校舎から屋上に出る扉が開いた。
 人は立ち入り禁止の場所なので幻かと思って七生は眼鏡をかけなおした。けれど、やっぱり人だった