出店者名 新天使出版会(ヤミークラブ)
タイトル 零点振動A
著者 宇野寧湖
価格 100円
ジャンル 大衆小説
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紹介文
表紙モノクロ、本文モノクロ18頁、オンデマンド印刷、100円。

【小説】宇野寧湖

零点振動の番外編。一部再録です。少しだけBL風味あり。

「Help Me!」(第3回テキレボアンソロ収録)
助けを求める猫の声に気づいた羽鳥&槇。2人のとった行動は?!

「河童のハニートラップ」(第4回テキレボアンソロ収録)
雨の中、迷い込んだ資料館では、少し不思議な「怪異」が起きる。

「君を幸せにしてあげる」(書き下ろし)
アメリカに留学している学生時代の槇。そこで出会ったのは桐嶋だった。過去の2人の関係が明らかになる……

【君を幸せにしてあげる】(サンプル)
「パーティーなんて無理だってば、ケイ! ほんと、勘弁して!!」
 槇は髪をかきむしりながら、桐嶋に懇願した。彼は「諦めろよ〜、えらい先生からお前に指名があったんだから」と苦笑する。
 桐嶋の家に転がり込んでもう半年だ。生活費ギリギリの奨学金生活を続ける槇を、見かねて家に引き取ってくれた。ファミリー向けの高級アパートだから、部屋はいくつも余っている。そこに居候させてもらうことになった。いつの間にか呼び方も「桐嶋先生」から「ケイ」に変わった。男同士の奇妙な共同生活だが、桐嶋は家事も得意で、不器用な槇の世話を焼いてくれた。
 いつもなら、槇のすることには寛容な男だったが、今日の出版パーティーの出席の件だけは譲らなかった。トラウマ治療の重鎮が、最新の文献を出版したので、パーティーではそのお祝いをするのだ。もともとは桐嶋の宛名で招待状がきていたが、手書きで「君のところのDr.マキもぜひ一緒に」と書き添えてあった。
「お前ね、いい加減、売り込みってもんを覚えなさいよ。わざわざ、有名な学者が気に入ってメッセージくれることなんてないんだよ〜? このチャンス活かして、どっかの部局の研究員にでも、ねじこんでもらえって」
「人間向き・不向きがある! 俺は向いてない」
「だーかーら、隣に立ってたら、僕が代わりに売り込んであげるから。いい子にしてよね」
 笑いながら、彼はクローゼットからスーツを出すと差し出した。
「サイズ、そんなに変わんないでしょ? 貸してあげるから」
「ケイのスーツなんて似合わない。ケイは花もシャンパンも似合うよ。パーティーピーポーだ。でも俺は……」
「大丈夫だって、ほら、髪もあげたらさ。お前、きれいな目をしてるんだから」
 さっと彼の長い指が槇の前髪を持ち上げる。あらわになった瞳を覗き込まれ、赤面して目を伏せた。すると、桐嶋はクスッと笑って言った。
「ここはアメリカだ。逃げ隠れせず、堂々と顔を出してろよ。もう、お前の〈お父さん〉を怖がんなくていいんだって」
 〈お父さん〉の言葉に体がビクリと震える。彼は槇が胸に隠している〈お父さん〉に関するトラウマを知っている。あえてトラウマに言及することで、巧みに動揺させながら、優しく諭すように言う