パネルラは本を一冊、読書台に置いて、目を落としていました。 「何を読んでいるの?」 「『グスコーブドリの伝記』っていうの」 「グスコーブドリ?」 「賢治先生の本よ。私はこのはなしがとても好きなの。まだ読んだことないの、ジェイニ」 「うん、今度読むね」 「この本ジェイニにあげるわよ」 パネルラはハトロン紙でカヴァを掛けてあるその本をジェイニに渡しました。 「ブドリは最後に、ひとりで島に残るの。ブドリのお蔭で、土地は火山灰に覆われることなく、皆収穫が得られるの」 「……そうなの、」 ジェイニは鼓動が少し早くなりました。 「ブドリは本当のさいわいの為に生きたんだと思うの。他のひとが幸福に生きてゆかれるために、ブドリは島に残るのよ」 「うん……。それは、」 ジェイニは下を向いて云いました。 「私も、本当のさいわいのために進んでいきたい。本当に、そう思う」 「私もそうだよ、」 パネルラの瞳は少し涙で濡れているようでした。 「でも、本当のさいわいって、本当は何なのだろう? 私は未だそれを探さないといけないんだ」 ジェイニは本心を云いました。 「よく分からない、けれど……」 パネルラはぼんやりと云いました。 「パネルラ、一緒にしっかりやろうね」 ジェイニは少し胸を熱くしました。パネルラと一緒に何処までも頑張ってゆこう、頑張ってゆけるんだ、と思いました。新しい力が湧いてくるような気がしました。 「ジェイニ、」パネルラはジェイニの瞳を真っ直ぐにみつめて云いました。「お母さまは、私を赦して下さるかしら」
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