その光の粒のことを何と呼んだらいいのか、私にはわからない。 初めてそれを見たのは小学二年生のころだった。八月、夏休みの登校日。その日は記録的な猛暑、と朝からテレビのニュースで言っていた日で、私は炎天下の中を下校するなり玄関先で倒れた。いわゆる熱中症、というやつだ。当時はまだ、日射病と呼んでいたか。母はとても心配したが、居間のソファに寝かされた私は「日射病には水より塩水を飲むといいのよ」などと、朦朧とする意識の中、本で読んだ知識をわりあい冷静に披露していた。幸いにして、症状はすぐに回復した。 けれど、それからだ。 私の視界に、無数の細かな光の粒が舞うようになった。 光、といっても、まぶしくて仕方がないという類のものではない。ただ、何かものを見たとき、特に明るい方から暗い方、もしくはその反対へいきなり視線を移したようなとき、無地のものをしばらく見つめたときなどに、小さな小さな粒子のようなものが蠢(うごめ)いて見えるのだ。それにより、見ようとしたものが見えない、というわけではない。もの自体は見えるのだが、その上に、言うなればその光の粒が蠢く透明のフィルムのようなものが一枚掛かっている、ような状態。それについて正確に描写する言葉を紡ぐのは、とても難しい。小学校二年生の語彙力では尚更で、だから尚更、私はとても怖かった。
(中略)
夏休みの大学は閑散としている。必修科目の課題で、休み明けにあるグループ発表の打ち合わせをする予定だった。朝ごはんの片付けに手間取って、少し遅れてしまった。急いで図書館のロビーに入ると、既に皆集まって、ロビーの隅のソファで談笑していた。近寄って行く私に気づき、あ、来た、と真奈ちゃんが言った。 「あ、おはよう、ごめんね、遅れて」 遅れて、の、て、にかぶさるように、じゃあやろっか、学習室取ってあるし、と真奈ちゃんがまた言う。さっきまで話していたのであろう話の内容で誰かが何か言い、皆が笑った。そして、また少し雑談をした。四人掛けのソファ。五人目の私は、少しの間、ソファに座る四人の前に黙って、曖昧な笑顔を浮かべながら立っていた。
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