繋ぎ屋の店主は、つまり私の上司は、十代の少年にしか見えない。 「おおまかな事情はわかりました」 マイセンのカップを置いて(私は来客後にこれらのカップを洗う仕事が一番嫌いだ)、繋ぎ屋の店主は言った。 「あなたの依頼をお受けすることは、もうほぼ決まっています。そもそも依頼を受けるに値する者しか、ここに辿り着くことはできませんからね。けれども……、これだけはお尋ねしたい」 沼田氏の強いまなざしを正面からとらえて、繋ぎ屋の店主は言った。 「なぜ“匠の源内”なのです。彼は、医者ではありませんよ」 「わかっています」 沼田氏は頷いた。 「彼が冠に“匠”を頂いているのは、高い技術であらゆる道具を生み出してきたからです。その分野は多岐に渡り、近年は特に機械工学とソフトウェアにおいての活躍が目覚ましい。一方で伝統的な工芸作品でも右に出る者はいないと聞きます。とても常人の域ではない。……だからこその“匠の源内”なのでしょうが」 沼田氏がすらすらと述べる内容は、先ほどのものとは常識の範囲が違っていた。客人から繋ぎ先の情報を得る、というのは繋ぎ屋の書記係としてはだいぶ情けない気はするが、雇い主である繋ぎ屋の店主が教えてくれないとなれば私はどうすることもできない。──失礼、私情を挟んだ。 「その技術で、医療機器を作ってもらうことをお望みなのではないでしょう?」 「違います」 沼田氏はきっぱりと言った。 「私が彼に望むのは、薬です。?匠の源内?は今でこそ、そうした製作全般で名を馳せていますが、そもそもは薬学を根本としていたはずです。そして初代から何百年も経った今でも、それは変わっていないはずです。……違いますか」 「……よく、お調べのようですね」 繋ぎ屋の店主は少しだけ微笑んだ。けれどすぐにそれを引っ込め、早口で説明を始める。 「繋いだ先での交渉に関してこちらは一切口出しを致しません。たとえ交渉決裂となったとしても、責任は取りかねます。代金は全額前払い、現金で。日時もこちらで指定させていただきます。よろしいですか?」 「ええ、結構です」 沼田氏は初めて、きちんと微笑んだ。繋ぎ屋の店主はそれを見て逆に表情を引き締めた。 「最後に、一つ」 私もペンを止めて顔を上げた。
「あなたは、扉を開く覚悟がありますか」
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