俺の新生活は、この場所で始まる。 期待よりも安堵の方が大きい今の気持ちを素直に受け止めて、精々穏やかな生活を送れるよう、慎ましやかに努力していくことにしよう。 そう、心に刻み込んでいた。 ---- ともすれば冷徹とでも称されそうなほどに完璧主義で、崩れたところなど微塵も見せる気配のない堅物の生徒会長。風紀委員とすら見紛うほどに規律正しく振る舞う様は、近づくものに対する壁を作りつつも、多くの生徒から憧憬の目を向けられていたのだ。 そんな彼女が今やくたびれたジャージで街を出歩きコンビニでカップラーメンを啜るニートになっている。 ---- 「浮気相手とデートするときに普段着なのは、言い訳ができるようにするためです。友人とか親戚とか、相手によって言い訳の種類は変わるでしょうけど、あくまで日常生活の一環で特別な相手じゃないよってアピールするにはその方がいいですからね。逆に、今日みたいに車での移動なら人目を気にしなくていいから本気でおしゃれするんですよ、相手に見せるために」 ---- 返事が来たのは翌日の夕方、事務所で作業をしている時だった。 返ってきたメールの件名は「お久しぶり」。意味がわからない。 だが、メールを開き、俺の思考は更に停止する。
一枚の写真が添付されていた。 ---- 鮮血。 ---- 今の頭じゃろくに考えこともできやしない。 少しでも冷やして、冷やして、冷やして、全部、忘れてしまいたかった。 ---- 「俺も、そうだから」
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(春、とある喫茶店、奥の席にて軽やかなジャズを添えて)
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