出店者名 温室
タイトル アイネクライネレースライン
著者 篠崎琴子
価格 300円
ジャンル 恋愛
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紹介文
文庫 / 帯付き / 44P 

彼女たちの『女王』が死んだ。
謀略に彩られた遺言にしたがい、少女人形の継承がはじまる。


 名跡の当主、ロデリンダが死んだ。齢十八歳の、うら若き姫君だった。
『私に集約された我ら一族の財産権利に土地館、そのすべての動産不動産は、私の形代である、姫君人形を導としてのみ、相続することを許します。すべては、末代に至るまで』
 そんな奇妙な遺言を受け入れた名家の遺族たちと、選ばれた『女王』の後継者。
 手に手を取って踊れる彼らとそしてもうひとり、まさしく渦中の存在である、少女人形が物語る――これは二百年にわたる、たったひとつの恋の顛末。

1 Rodelinda

 さよなら、さよならとあなたは笑う。
「私が恋したあなたがずっと、ずっと誰かに、選ばれてくれるのなら」
 あなたが愛した持ち物に、あなただけを愛するお人形に、あなたの悔しさを紛らわせたあたしに、お別れを叫ぶ代わりに笑う。
「だからさよなら。グリゼルダ」
 あなたは笑って叫ばずに眠る。あなたは病毒を憎んだまま、あたしを抱いて安らかに逝く。
 でもねあたし、あなたとさよならはしないの、ロデリンダ。結局こんな最後まで、あなたはあたしを手放さないもの。
 死にゆくあなたの腕の中で、少女人形はお供する。硝子の瞳に長い髪。それから穏やかに優しいドレス。全部、あなたとおそろいのあたしだった。
 だから、あなたを生かすことなんてできない、人形でしかないこのあたしの、王子様にはなれない女王様。
 あたしは、あなたを手放さない。

2 Rosetta

 弔旗はためく館の奥で、あたしは静かに待ち続けた。だれが次の持ち主だろうかと、考え考え幾月も。病毒に長く煩わされた、あなたの愛した少女人形を、このあたしを受け取る人を。
「ロデリンダ嬢が死んだからには、偉大なマイヤーハイム家もこれまでか。のこるは傍流ばかりなり、と」
「あの小娘、妙な遺言を残しおって。財産権利に土地館、全て人形の付属物だと?」
「各国王家とも血を連ねる、大陸屈指の名家ですのに。神聖な遺言をなんだと思われていたのやら」
「それで後継者はどなたです」
「さあ? だが若い娘の他は選んではならない。そして同じ響きの名に限ると。遺言なのだとか」
 廊下で広間で騒がしい声は、ロゼッタという名の跡継ぎが決まって、消えた。