1 Rodelinda
さよなら、さよならとあなたは笑う。 「私が恋したあなたがずっと、ずっと誰かに、選ばれてくれるのなら」 あなたが愛した持ち物に、あなただけを愛するお人形に、あなたの悔しさを紛らわせたあたしに、お別れを叫ぶ代わりに笑う。 「だからさよなら。グリゼルダ」 あなたは笑って叫ばずに眠る。あなたは病毒を憎んだまま、あたしを抱いて安らかに逝く。 でもねあたし、あなたとさよならはしないの、ロデリンダ。結局こんな最後まで、あなたはあたしを手放さないもの。 死にゆくあなたの腕の中で、少女人形はお供する。硝子の瞳に長い髪。それから穏やかに優しいドレス。全部、あなたとおそろいのあたしだった。 だから、あなたを生かすことなんてできない、人形でしかないこのあたしの、王子様にはなれない女王様。 あたしは、あなたを手放さない。
2 Rosetta
弔旗はためく館の奥で、あたしは静かに待ち続けた。だれが次の持ち主だろうかと、考え考え幾月も。病毒に長く煩わされた、あなたの愛した少女人形を、このあたしを受け取る人を。 「ロデリンダ嬢が死んだからには、偉大なマイヤーハイム家もこれまでか。のこるは傍流ばかりなり、と」 「あの小娘、妙な遺言を残しおって。財産権利に土地館、全て人形の付属物だと?」 「各国王家とも血を連ねる、大陸屈指の名家ですのに。神聖な遺言をなんだと思われていたのやら」 「それで後継者はどなたです」 「さあ? だが若い娘の他は選んではならない。そして同じ響きの名に限ると。遺言なのだとか」 廊下で広間で騒がしい声は、ロゼッタという名の跡継ぎが決まって、消えた。
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