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「ここまでくれば――大丈夫だろ」 |
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突然ですが、ファンタジーに登場する魔法を、仮に「文系」と「理系」に分けてみたいと思います。 「文系魔法」は、その発動において主に言葉を紡ぐことが重要なもの。 呪文詠唱が詩的で美しく、それ自体が読みどころでもあります。 体系立てられた魔法理論は存在しないか、あってもさほど言及されないことが多いです。 また呪文はなくても、魔法を当然のように使える人外が使う魔法もこれに当たるかもしれません。 反対に「理系魔法」は理論が重要で、長い呪文の代わりに魔法陣や道具がよく用いられ、使用者はたいてい人間です。 「自販機にお金を入れてボタンを押したらジュースが出てくる」のと同じように、魔法を使う行為とその結果についての因果関係が厳然と決まっていて、「奇跡が起きた!」みたいなご都合展開にはならず、物語にフェアな感じがあります。 さて『月下の星使い』でフェルナンドが使う「星天術」はというと、ものすごくカッコいい理系魔法なんです! 「星天術書」という魔術書に前もって術式を書いておくと、それが魔術儀式と同じ効果になって、術者はそこに「接続」する。 その作法がとてもきびきびとしていて、魔術でありつつも、読んでいてまるでプログラミングを組んでバーッと自動処理をするような気持ちよさがあります。 (そしてその使い手フェルナンドもまた、めちゃくちゃカッコよくて一粒で二度おいしいのです) 星天術について「よく設定が練られています」などと言ってしまうと無粋の極みですが、しっかり体系立てられた理論の陰には、それまでの魔術が辿って来た歴史が感じられます。 私たちの世界で科学が発展してきたように、フェルナンドとルーナの世界では魔術が時代とともに進化してきて、星天術が生まれている。 「星天術」は単なる設定を超え、作品世界に歴史を生み出し、奥深さを与えているように思いました。 「おさしょう」フェルナンドとルーナの関係性はもちろん、世界観の面白さにも注目していただきたい作品です。 | ||
推薦者 | 泡野瑤子 |