新学年の新学期。それは出会いと別れの季節。 地球からはるか離れた恒星間航宙艦『ゆりかご』においても、それは同じ。 だから、初等教養科四年生になったばかりの、九歳の女の子『こはな』にとってもそうです。 たとえば、親友が目の前でものすごく取り乱すという感じで、
「どどど、どどどどどどどうしようこはな」
突然に、あるいは必然に。
「おとなりのナツお兄さんがひっこしちゃったみたいなの!」
こはなたちの春は始まったのです。
第一章 きえたお兄さん
二十七世紀もそろそろ終わりにさしかかるころ。 地球から遠く離れたとある惑星。二連の衛星と、その惑星との重力安定点(ラグランジユポイント)に大小百を超える宇宙船が停泊していました。 はるばる星の海を超え、地球からたどり着いた艦船群。国際深宇宙探査機構の第三探査船団。 その中でも、ひときわ大きな威容を誇るのが旗艦ゆりかごです。 スペースコロニーと同等規模の円筒型の疑似重力住居環境を持つ、大規模恒星間航宙艦。 その疑似重力ブロックの最も内側、表層部にこはなの住むマンションはあります。
「んあ……」
けたたましく鳴り響く携帯通信機(ブライトワンド)のアラームを停め、こはなは自分のお布団からむっくりと起き上がります。ホーム画面のデジタル時計は、艦内時間である協定世界時準拠で午前四時ちょうど。 外――つまり居住ブロック内の照明系はまだ日の出前の薄明かり。空調系は春の早朝を再現してやや肌寒い摂氏十一度で循環しています。
「ふわぁああああ……」
大きなあくびをしながら、それでも今日もちゃんと起きられた自分にちょっとだけガッツポーズをしてから、こはなは自分の部屋を出ました。
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