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コウは、裸足だった。 |
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都会での仕事に疲れ、耳が聞こえなくなる、という症状に見舞われた「僕」は主人を亡くし、無人となっていた生まれ育った東北の実家へ身を寄せることになる。 そこで出会ったのはいつも裸足で女の子の制服を着ている少年、コウだ。 主人公であるあとり、少年時代のあとりの友人だった人語を介すカラス、生徒として彼を訪ねる少年コウ。 三匹の「迷い鳥」の過ごした儚く過ぎ行く時間を、静けさを潜めた筆致は穏やかに拾い上げていく。 共にいられた人たちと、なんらかの理由で離ればなれになっていくこと。 喪失をかかえたまま、互いの中から薄れていく記憶と共に、それぞれが違う場所で生きていくこと。 たとえ寄り添いあって隣にいたとしても、魂はそれぞれに「ひとりとひとり」であるということ。 寂しさをありのままに感じることが出来るのは、心のうちに目をそらさずにまっすぐに生きている証だ。 毅然とした孤独を内に秘めたまま互いの心の在り処を確かめ合い、時に照らしあうようにしながら共に生きた彼らの過ごした時間は、儚くも美しい。 抜き出してガラスケースの中にしまっておきたくなるようなしんと透き通ったきらめく言葉たちひとつひとつの紡ぐ軌跡の残すものは是非、本著を開くことであなた自身に確かめてほしい。 | ||
推薦者 | 高梨來 |