出店者名 おとといあさって
タイトル ハミングバード(ジャイアント)
著者 らし
価格 100円
ジャンル 掌編
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紹介文
“かわりたかった。かわったら、わからなくなった”

8000字ほどの寓話的な短編です。
大きさにまつわる物語なので、読み進めるほどページが大きくなっていくペーパーにしました。

 巨人にあこがれるハチドリがいた。ハチドリは自分の巣では眠らない。寝ているあいだに何かの拍子で見ている夢が現実になったら、ハチドリはきっと巨人になるから。そうなったら、枝が折れて大変だから。だからハチドリはいつも、ケヤキの根元で胎児のようにうずくまって眠った。落ち葉のベッドでちいさな胸を上下させて、巨人になった夢を見ていた。
 緑豊かな森に抱かれて、ハチドリは美しく育った。森はまるで巨大なサラダで、動物たちは飢えることを知らない。ハチドリが食べるのは、明け方ひらく花畑に実る金色の花の蜜だ。瑠璃色の羽を広げて、銀色のくちばしで吸った。
 なにひとつ暮らしに不自由はなかったけれど、花から花へと飛び回るとき、朝露に映った自分の姿を目にするたび、ハチドリの気持ちは雨季の空模様のように曇った。
「おっと失礼」
 通りすがりの鳥たちは、蜜を吸うハチドリの背中をぷすりとつついてくすくす笑う。
「虫だと思ったら、虫鳥ちゃんだね」
 そういう鳥たちはみんな、ハチドリのことを憎からず思っていたのだ。花粉にまみれて空腹を満たす小鳥の姿は愛らしかったし、ハチドリの体は、彼らの赤ん坊ほどの大きさしかなかった。鳥たちは、自分の雛を可愛がるような親しみをこめてハチドリのことをからかっていたのだ。
「やめてください!」
 とハチドリはさけんだ。
「やめてよ!」
 その声がとても高くて透きとおっていたので、みんなはいっそうハチドリのことが好きになった。
 夜が来るたび、ハチドリは大きくなりたいと泣いた。


さまよえる魂の詩(うた)
芸術的にも高い価値がある作品です。
一枚一枚、描きこまれたハチドリの羽が美しい。
裏面も、ふと考えさせられるような絵があります。
手作りで折りこまれたという紙は、とても面白い構図をしています。

読者を、美しくもどこか悲しい世界へと誘ってくれることでしょう。



小さな誤解が生んだ、癒えない悲しみと、その果てを描いたお話です。

ハチドリは大きくなりたい、という夢を抱いていました。

大きくなることは、強くなること。
その一方で、見えなくなること。失われること…

魂はどこにあるのか、何を思うのか。歌が心に響く作品でした。
推薦者新島みのる