仄暗い部屋だった。どうせなら、光ひとつなくして、完全な闇に塗り潰してくれれば良いのに。なにもかも、みせないで、覆い隠してくれれば良かったのに。 打ち放しの天井から首吊り死体のようにぶら下がる橙色の小さな電球を、私はぼんやりと見上げていた。体のあちこちが痛くて、だるくて、頭がぼうっとする。 背中に硬い床の感触。私は今、倒れているのか。投げ出した手足は、自分のものじゃないみたいだ。 体の上に、何かが重く圧し掛かっている。大きく、生温かいそれが、私を床に、押さえつけている。苦しい、早く、どいて。疼く腕を、足を、引き寄せて、私は何とかそれを脇へとずらし、私の体から引き剥がした。ごとりと鈍い音がして、それは床へと転がった。同時に、私の体にささっていたものも、ずるりと抜ける。一瞬、駆けあがった痛みと込み上げた吐き気に、私はぎゅっと目を瞑った。数秒、息を止めて、ゆっくりと呼吸する。再び遠のく意識を繋ぎとめて、私は床についた手に力を込める。起きなきゃ、起きて、ここを、出て行かなきゃ。 どこへ? 床は濡れていた。弱い白熱灯の光に照らされて、それは黒くぬらぬらと沈んだ色をしていた。ふらつく脚で立ち上がると、どろりとした液体が私の腿を伝っていく。見下ろすと、小さなこどもの足が見えた。私の足だった。白い皮ふを汚し流れる、これは、血? 爪先の傍に、今しがたどかした巨体が転がっていた。血溜まりの中心。もう動かない。喉を食い破られている。それは、ひとのかたちをしていた。 (誰も助けてくれなかった) 瞬きをひとつ数えて、私はゆっくりと顔を上げる。すぐ側に小さな窓があった。街灯の消された外は闇に沈んで見えない。ただ静かにこちらをみつめるこどもの姿が映っているだけ。 (大丈夫) 血まみれの唇を手の甲で拭った。 (私は、ちゃんと、たたかえる) たとえ、ひとりでも。
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