出店者名 今田ずんばあらず
タイトル イリエの情景 〜被災地さんぽめぐり〜3(完)
著者 今田ずんばあらず
価格 1500円
ジャンル 大衆小説
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紹介文
イリエシリーズ完結! 唯一無二の被災地青春ロードムービーです。
東京の大学に通う依利江は、友人三ツ葉の誘いから東北被災地を旅をします。
陸前高田市での出来事のあとで、二人は遠野へ向かいます。今日は別行動。依利江は遠野を、三ツ葉は釜石市へ行くことになりました。
遠野は内陸のまちで、津波の被害はなにひとつありません。のどかな田園風景、のんびり時を過ごす人々。
まるで被災地とは違います。違うからこそ、依利江は大切な発見をするのでした。
一方釜石市の三ツ葉も、旅の根底を揺るがす出来事が起こるでした……。
やがて二人は東北の地で、なによりも大切な出会いをする。
第3巻はよこはま篇、遠野篇、釜石市篇、仙台市街篇、女川町篇、名取市閖上篇です。
シリーズ累計240部。一千年語り継ぐ青春物語、そして、依利江と三ツ葉をあなたのもとへ……。

文庫 312P

「私は、どうなんだろう」
「え?」
「写真撮るの、好きなのか、わからないんだ」
 でも。
「好きで撮ってるのか、目立ちたいからなのか、見捨てられないようになのか、わからないんだ」
「三ツ葉……」
 その話を聞くのは怖かった。三ツ葉のウエストポーチには、オリンパスの一眼レフが入っている。
「一千年。いいヒントを得たよ」
「今ので?」
「ああ。でもどうしてそれがヒントといえるのか。伝えるには少々手間がいる。そうだな……私も過去話をしようか」
「被災地を旅した思い出話?」
「いやいや。本当の過去話さ。依利江と会う前の話。会って間もないころの話、そして、この旅に依利江を誘ったいきさつだ」
「面白そう。聞かして聞かして!」
「聞かせよう。あれは幼稚園に通ってたころの話……でもその前に」
 三ツ葉は店員を呼んだ。雅山流如月を一合頼む。いつの間にか浜千鳥は空いていた。
「その、頼んじゃって平気なの?」
「平気もなにも、昔話は酒のつまみにちょうどいいんだ」
 なんか、すごく平気じゃなさそうだった。明日引きずらなければいいんだけどなあ。
「ずっとね、中途半端な生き方だったんだ」
 空の徳利をくるくるいじりながら、彼女は語りだした。
「小さいころから人と同じようにはなりたくなかったんだ。学校も嫌いだった。先生も苦手だった。はたから見たら問題児だったと思うよ。人と違うことばっかやってたからね。どれだけ迷惑かけたんだろう。迷惑かけたくてかけたんじゃないんだ。なにをすればいいのかわからなかったから、人に迷惑をかけることもしてしまったんだ」
「親から注意されなかったの?」
「されたさ。めちゃくちゃ怒られたこともあった。母の真似して包丁持とうとしたときとかね。でも怒られたあと、どうして持っちゃいけないのか確かめたくなるんだよ。それで指を切って、泣いたっけなあ」
「よく生きてこれたね」
「自分でも不思議だよ」
 三ツ葉は笑ってたけど、あんまし笑えない。
「とにかくいろんなことを自分でしたかったんだ。自由になりたかったから、中学を卒業したら働いてもよかった。まあ結局、働き出したらその世界のことしか知れない気がして高校に入ることにしたんだけどさ。高校生という経験は一度しかできないわけだし。でも高校生らしいことは毛嫌いしてね。部活とか恋愛とか、いわゆる青春を謳歌するってやつをしとけばよかったかなって、今は思うよ。中途半端なままだったんだ」