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序 |
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序文を読んで、信じられない、と思いました。 まさか、ヒツジが。でも、それが全てで。 研究員が見つけ出した理論は、ヒツジによって実現された。 ヒツジはあくまで、作られた目的に沿うように行動する。 しかしその得意な能力ゆえに、想像をはるかに越える奇想天外な事件が引き起こされていく。 序文を読んだとき、わかる部分もあれば、わからない部分もありました。 なめらかに語りかけるその文体は、まるで何もない雪原をスキーで滑り降りるかのような読み心地で。 夢中になって本を読みすすめ、読み終えた頃には、全ての意味がわかるようになっていました。 実によく考えられた作品でした。 ヒツジはただ、ヒツジとして存在していた。 ただ人間が、欲と嫉妬にまみれた人間が、ヒツジをめぐり争い、勝手に滅んでいく。 その様は奇妙で、でも、恐ろしいほど納得のいく形で。好奇心をかきたてられるようで。 お話は、男性トキと少女パーリィ、それぞれの視点で進められます。 二人とも、まったく背景が異なる。異なるけれども、ひとつの共通点があって。それが、あまりに強烈でした。 自我がない。 存在しているけれど、役割をおってはいるけれど、それでも自我がなかった、失われていた。 やってはいけない事も着々とこなす彼らは、強く見えるだろうか。しかしそれは、見た目だけで。 誰かにしがみついていなければ、いけなかった。でも、手をのばしても、相手には届きそうにもなくて……。 自我がない主人公たちを、悪がよどむ町を、ヒツジが横切っていく。 行き場のない感情がどうなってしまうのか、見物です。 凄まじさと衝撃に、最後までやみつきになるお話でした! | ||
推薦者 | 新島みのる |