第一話 お題 …… 繋ぐ 橋 夜空
やあ、勇者くん。 よくここまでたどり着いたね。 けど、ぼくのことはあまり聞かないでほしい。 ただ今、ぼくは空を飛んでいる、ということだけを知るにとどめておいてほしい。 どこへ行くのか、といつもみんなは心配しているけれど、心配だからきみもここまで来たのだろうけど、それはさほど重要なことじゃない。
ほらみてごらん。
これできみの辿ったそれが、ぼくの足が、どうなっているか分かっただろう。 そう、ぼくの足こそみんなが踏みしめ歩く橋なのさ。 歩くことを捨てて代わりにこの橋を手に入れぼくは、歩くきみらのために伸ばしてつないで飛び続けている。だからやっぱり行き先よりも、飛び続けることの方がぼくにとっては大切なんだ。 行き先なんて、どうでもいい。 なにしろぼくが落ちたりしたら、きみたちだってただ事ではすまないだろ? 想像力の尽きたモノカキなんて、滑稽でしかないだろう? わかったなら、ぼくのことはあまり聞かないでほしい。 空を飛んでいる、ということだけが知れたなら、それで十分だってことだ。
さあ、つなぐ道行、物語を追うように、ぼくを信じてただ渡りたまえ。 そこに橋はかかり続け、きみらもずっと遠くへゆける。 迫る夜空も暗闇も、目にしたところで覚えた疑念は、ぼくが必ず拭い去る。 きみから必ず拭い去る。 わかったなら、ぼくのことはもう忘れたらいい。
よく来たね、勇者くん。 さあ、ペンを取りたまえ。
第二話 お題……温泉 十五夜 対価
「あっ、見えた」 そう言って「ねえ、ねえ」と私を揺さぶる小夜子は、湯船の中からじっと空を見上げている。 「ほら、おかあさん。お月様の横にひらひら、って」 小さな手を言葉に合わせて振りながら、そこでようやく振り返ってみせた。 「またいたの? 神様」 「そうだよ。おかあさんには見えなかった? ながーい尻尾で、たくさん字が書いてあって、お父さんも乗ってたよ」 小夜子は今でも「おはなしの神様」がいると信じている。そんなことを教えたのは小夜子の父親だ。彼は趣味で小説を書くアマチュアの作家だった。休みになれば部屋にこもることがほとんどで、遊びたい盛りの小夜子が外へいこうとせがんだとしても、逆に話して聞かせる得意の作り話で小夜子を虜にしてしまうような人だった。
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