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【空檻】 |
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さあさあと静かに絶望が降る中で、見えているわずかな明かりに向かって手を伸ばすような印象を持った。登場人物たちは、その明かりを掴めたのだと信じたい。 閉じられた方舟の中で与えられた役割を懸命に果たすこどもと、こどもを「つかう」おとなの境目はどこだろう。おとなにもこどもの心を持った人もいれば、おとなともこどもともつかない曖昧で微妙なバランスの上に生きる人もいる。そのあいまいな境目で区別されて、羽人の場合は飛べるか飛べないかという点で分けられて、こどもはおとなにつかわれてしまう。おとなも方舟の中枢によってやはりつかわれている。 世界の不条理が描かれる中で、こどもたち同士の絆が光に感じられた。主人公たちがこどもとして役割を果たす中で、どこまで生きれば、何をしたら許されるのか、という問いを抱えながら、ただ「生きる」ことを希求し掴み取るまでの物語だと思う。 | ||
推薦者 | 海老名絢 |
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咲祈さんの物語は、幸福と絶望と空虚のクッションが、まるで囲むように置いてある箱庭のような世界だと、勝手に思っている。 愛情と執着、搾取される子供、欲にまみれた大人、そんな中でたった一つ信じられる魂の片割れ。モラトリアム、和の世界観。 上の言葉にぴんと来た方にぜひ、読んでほしい。きっと満足できる世界がその本の中に詰まっているから。 | ||
推薦者 | 服部匠 |
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空を飛べるからといって、自由だとは限らない。 大切にしているものが、同時に彼らを縛るものでもある。 空を飛べる子供たちと、飛べない子供たち、そして、かつて子供だった大人たちが、空を飛ぶ「方舟」を舞台に繰り広げる和風ファンタジー小説。 登場するのは、方舟の外を飛び、時に命をかけて戦う「羽人」と呼ばれる子供たち、体を売る少年少女、飛べなくなった大人たちといった人々。 地上を追われた彼らにとって、この「方舟」だけが残された世界で、この小さく脆い人工の世界を維持するために、あらゆるものが犠牲となり、あらゆる自由は奪われ、彼らはこの「方舟」という世界の一部として機能し続けている。そんな中にあっても、彼らがそれぞれ大切なものを守ろうとする姿が描かれている。 誰しも特別なもので在り続けることはできず、大切なものを守れるほどの強さには及ばず、捧げられるものには限りがあり、結局のところすべてを失うしかないのかもしれない。 そんな悲しい予感が、物語全体に霧雨のように降りかかっているのだけれど、一方で、物語を未来に繋ごうとする登場人物たちの意志が随所に感じられて、それが真ん中にすっと通る芯のように心強い。そして、丁寧に選び取られた言葉、春先の清流のような文章が、この物語を優しく彩っている。 この物語の中で、何人かの登場人物は、名を変え、姿を変え、己の在り方を変えていく。それが、とても美しい。自分の身ひとつ自由にはならない世界に生きる彼らが、あらゆるものを失いながら自分の在り方を選び取っていく様を、見てほしいと思う。 (ところでこれは思い切り心の声なのだけれど、登場人物の中では「大人」に分類される「柊」さんを全力で推させてほしいんだ...咲祈さんの御本はどれも素敵なのだけれど、この1冊を選んだのは彼がいたからです。なんかこう、ずっしりとめんどくさいもの色々抱えたややこしい大人が好きなんだ...) | ||
推薦者 | 佐々木海月 |