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▼10月3週

東京○-×名古屋
4点

お題
我が子へ

ぶしゅううう

ぶしゅううう

規則的に音を立てるのは
人工呼吸器の弁と心電図モニタと
時々鳴るのが
点滴の薬液不足を知らせるアラームと
(いま交換します)

溺水事故
心肺停止時間が長く
病院到着後
心拍再開しても
脳死状態

「できる治療は全部やってください」

あなたの瞼は小さなテープで閉じられています
結膜が乾かないように
という以上に
なにも映さなくなった瞳をさらすのが
どれほど酷なのか知ったのは
医療従事者になってからでした

ベッド柵に貼られた元気な頃の写真

見るに耐えないのか
見つめ続けるのか

わたしと
あなたの御家族との
最も大きな違いのひとつです

もうじきお母さんがやってくるでしょう
夜にはお父さんもやってくるでしょう

わたしは
あなたのことを名前で呼べばいい
でも、御両親は
いつも名前以上のものを込めて
呼んでいたのだから

呼びかける
あなたは答えない
呼びかける
冷たい足をさする
あなたは答えない
お父さんから
呼びかける
お母さんから
呼びかける

我が子へ

この事実は一生知らずに生きてゆくのかも知れない
同じ想いを共有出来るような事はない
血の繋がりはあるが
きっと理解しがたい部分の話

朝食のパン
昼時のテレビ
眠るまでの歌声

白く靄がかかったような幸福に
この事実は覆われている事を
いつか話す時が来るのなら
それはエゴですと
しっかりとお言いなさい

恐怖以外の何者でもなかった

私ではない命が
腹の中でうごめく
肉体を変形させ
吸い取ってゆく

何度も事故を起こそうとして
それでも出来なかった
殺意ではなくて
おぞましかった

自分と、その中の生命というソレが

だから、あなたが男で本当に良かった

何千年も前から続く生命の掟を
何かの罰だとしか思えない
生まれてくれた歓喜よりも
化け物から切り離された安心感でいっぱいだった

我が子へ

愛で誤魔化してしまうつもりはないけど
この話
きっと男には理解できないでしょうから
話すことはないと思います

ただ、こういう形で書いておくことを
どこかで知っていて下さい

(先攻・東京)左岸丸兎-(後攻・名古屋)e.R.i.51

審判評:
ほんわか系がくるかなと思っていたけれど真逆がきて、
それはそれで親という立場の隠れた面が現れて独特味があるもんだなー
と思いました。

-審査員:カリン

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