過去の結果

注意書きぐらい私に頼まなくても自分で書いたらいいのに。

パソコンに向かって呟いていた。
会話の相手が異動や寿退社で次々にいなくなって、ひとりごとが増えた。
危ない兆候だ。

溜息で、毒素を吐き出して、キイボードを叩く。

「必ず」って入れたほうが良いかな。
主任は神経質で完璧主義なところがあるから。
週末ずっと電源をつけっぱなしにしていたなんて、許し難いに違いない。
それでこちらを怒鳴るのは筋違いだと思うけど。
「！」を重ねている自分はかなり苛立っているらしい。

それにしても、資料室のパソコンなんて使う人がいたのか。
あまり使われないから消し忘れに気づかなかったんだろうな。
そうだ、モニターの電源も忘れやすいから書いておいてあげよう。
なかなか気が利くねえ。
気分が良くなってきた。

上出来、上出来って
プリンタの前でにやけている私、ちょっと気持ち悪いぞ。
まあ、楽しいなら宜しいんじゃない？

上機嫌ついでに、口に出して読んでみる。

最後に使った人は
必ず電源を消しましょう！！
（モニターも）

いつもＰＣを消し忘れるので
彼女がデスクに貼り付けた
ＰＣは２人で暮らし始めたとき
お金を合わせ買った

彼女は残業できなかった仕事や
メールをこなすためにＰＣを使った
３つ年下の僕はまだ学生で
彼女が使ったあとに２ちゃんねるしてた

彼女が先に寝る
僕は夜遅くずっとＰＣを叩いてて
朝、彼女の怒った声で目を覚ますのだ

大抵はＰＣが付きっぱなしであることで怒ってた
あと、開いてるスレがＶＩＰだとか特アだとか…
モニターが付いてるときも怒ってた

すこし申し訳なさそうに、彼女の入れた珈琲を飲む


くだらねえ、と思っていた
そんな僕の無知が、そこに縮約されていた
同時に、彼女の聡明さと、それゆえの脆さも
そこにあったのだろう

だから思い出すとき
いつも返ってくるのはあの時間なのだ


暗い部屋、モニターが瞬いている
彼女の輪郭がくきりと浮かぶ

静かに、電源の入ったモニターを見つめている時間は、嫌いじゃない

今でも、ちっとも嫌いじゃないんだ

（先攻・名古屋）こみちみつこ－（後攻・神戸）にゃんしー