坂道を毛玉が転がるよ、はらはら、はら。
糸が、ほどけていく。
形がなくなってしまう。
この桃色の毛糸たちがハートを形作っていたことを、
みんな忘れていくのね。
きっと、覚えているのは、あたしだけ。それとも。
毎晩のように電話をかけていました。
今夜は、どうしたの?なんて、いつもと変わらない毎日なら、
伝えることは何もないのです。
それなのに、あなたの声が聞きたくてたまらなかった。
となりにいる髪の長い彼女との時間を、
ほんの少しでも頂きたかったのです。
ほんの少しぐらいなら、頂いてもいいでしょ、
その後は、邪魔なんてしないから。
出来上がる前だった桃色のマフラーをほどいて、
さよならを自分に言い聞かせたのは3年前。
電話を誰かにかけるという習慣は自然となくなっていきました。
それなのに、あの坂道に桃色毛玉が、ぽつんと、落ちていました。
ねえ、いてもたってもいられないわ。
明日、
グダグダに酔いたい時、
電話していい?
その言葉が引っ掛かった。
このひとは本当に何故、
そんなことを云うのだろう。
一緒に呑むときに先に酔うのはいつも私だ。
彼は顔色も変えずに銚子を傾ける。
「手酌って、いいよね」
そんなことを云って私にも次々に呑むように強引でもなく勧める。
「ねえ、グダグダに酔いたい時、電話していい?」
彼は繰り返す。
「なんでそんなこと云うの」
「誰かてあるやろ、グダグダに酔いたいとき、」
酔いたいときには酔えばいい電話なんかするなと
投げるように云ってやりたいがどうしても云えない。
このひとの携帯電話に掛けると
いつも留守番電話に繋がることに感じる理不尽を
どう訴えたら良いだろう。
「なあ、だから、グダグダに酔いたい、」「ちがうでしょッ!」
遂に私は云った。
「酔うときはグダグダじゃなくて、ぐでんぐでん!グダグダに酔うじゃない!
ぐでんぐでんに酔いたいって云うのッ!」
そこで少し泪が出そうになった。私、今少し、グダグダかも知れない。
(先攻・大阪)待子あかね-(後攻・京都)泉由良