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▼日本シリーズ

京都×-○神戸
4点

お題
夜と珈琲をまぜてみた

月の匂いを嗅ごうと鼻をすすると
血の味がする。
僕の血の味。
考えてみる。
すぐに君の生理の味に結びついてしまってなんだか切なくなる。
けれど
僕らは今、一瞬だけだね。
血の記憶を通してリンクした。
そこには絶望も悲哀も失恋も何にもなくて
ただ
お互いが確かにこの夜の中に生きているという事実だけが残る。
はっとする。電話をかけてみる。

「留守番電話に接続します」

苦笑い。時刻は1時57分。
でも、僕らは同じ夜の中に生きている。
気が向けばいつでも電話をかけられるし、それと同じぐらいの気まぐれさで、かかってくる。
少しだけ幸せになる。
けれど、
相変わらず鼻をすすると血の味がして、
その味はどうしても君の生理の味の記憶と混ざりあってしまって、
僕は蜜柑を食べる。

「血の味がする」

僕はもう、なんだかうまく笑えなくなって

夜と珈琲をまぜてみた

 その時、姉さんが会社からいつもの時間に帰ってきた。
「こら」
 姉さんは僕の手元を見て、僕の頭をコツンとぶった。

「夜の空気が甘すぎて我慢がならなかったんだよ」
 そんな抗議に耳も貸さず、姉さんは僕から夜を取り上げた。

「こんなにしちゃって、またお父さんに叱られるわよ」
「え。父さん怒るのかな。珈琲をまぜただけだよ」
 おろおろしてみせたら、いつものように姉さんは腕をまくった。

「あたしに任せなさい」

 姉さんは自分の部屋から小さな瓶を持って来た。

「八月の朝に採れる草露を溜めたものよ」

 姉さんは、夜に草露を一滴二滴落とし入れ、ガラスの棒で攪拌した。

 しばらくすると、夜がゆっくりと街の底に沈殿し始め、その上に分離した珈琲が上澄みとなって漂った。
 姉さんはそれを丁寧にお玉で掬い上げ、元のカップに戻した。

「これで大丈夫。もうこんなことしたら駄目よ」
 姉さんはまた僕の頭をコツンとした。

 このコツンの為なら僕は何だってやる。

(先攻・京都)小島基成-(後攻・神戸)一試合完全燃焼池上

審判評:
好きな感じの作品でした。
冒頭部もけして明るくないんだけれど、
暗さに酔ってる感じではなくて、いいとおもった。
おねえさんが、華麗に夜とコーヒーを分離してしまうのが、
おもしろかった。

-審査員:まとりょーしか

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