舞台は2020年よりはひと昔前の女子校。
卒業式の練習を抜け出して屋上に上がった宗本絆は、片手に煙草・片手にロックアイスを持って同じくさぼっていた同級生に遭遇する。
「なんで氷食べてるの? 好きなの?」
「だって冷たいし。ノンカロリィだし。透明だし」
三隅巳波は答えた。
ピルケースから取り出した五角形の錠剤を、宗本絆はガリガリと齧る.
透けてゆくように、透けてゆくように、もう何日もピアノ練習室三番にこもった女子高生。
透明な部分がいちばん熱いの、とガスバーナを見つめる中等部生。
何故あなたたちはそんなに透明を、求めて。美術室の香澄先輩は眉根を顰める。
「もう無理! こんな毎日あたし無理やだ駄目! ! ! 」 慟哭する巳波を、絆は誘う。
「もう、こんなところ、飛び降りよう」
(本文より)
自分の人格形成に深く食い込みすぎて作品としてまだ昇華することの出来ないあの日々のことを、この原作なら表現出来るかもしれないと思い、当初は作品集として考えていたものを原作者の御好意で漫画作品として制作することになった
少女、や制服に纏わりつくイメージが、当人たちの存在以上に甘美に、センチメンタルに、情緒的に、儚く描かれすぎる特にこの国のフィクションの世界で、それらと全く没交渉な少女時代であったことを、没交渉な少女たちがいたであろうことを記録しなければならない
フィクション側のこれらの虚像が現実の少女たちの世界を消費し食い潰しつくす前に
三隅巳波は沈黙を貫き、創作という形で宗本絆が現れるまで、この物語を口にしなかった。
本当は、本当に沈黙したまま死んでしまったlost girlsたちが沢山あったことを私は知っている。本当に沈黙して心が凍ったり冷たい遺体になる前に、あなたは声を出せる──出せた──だろうか。
どうして死を避けなければならないのか説得し難く歯痒くも、生きていて欲しいと思っているひとがいるから、本当に沈黙するその前に、呼吸が与えられるよう、祈っています。