第一章 世の中はなんでもあることに満ちすぎている
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いつも高いところを探していた。わたしを確実に殺してくれる、飛び降りることのできる、すごく高いところを探していた。けど、わたしの住む町で一番高いビルといえば、わたしの「ふたりのお父さん」が持っている本社ビルに違いなくて、そこの最上階は、つまりわたしの部屋なのだった。例えばガラスを突き破って地上三〇〇メートルの中空に身体を投げ出したとして、そこから見渡せる全ての建物は、わたしの「ふたりのお父さん」が持っているものに違いなくて、そんなところではぜったいに死ねないのだった。そう、わたしには、ふたりお父さんがいる。同性愛者が養子として子どもを持つことは、ぜんぜんおかしいことではない、と、少なくとも学校ではそう習った。でも、わたしがほんとうに知りたいことは授業にぜんぜんなくて、愛することが声高に語られる授業の最中、わたしは意識をそっと手放して、窓の向こうに広がる青い空のなかを探した。山陰地方には珍しく、あの町はいつもよく晴れていて、たいてい雲ひとつなかった。そして、静かだった。この静寂を突き破る雷みたいに、わたしはなりたいと思った。知ってる? 雷に打たれると、性別が変わることがあるんだって。わたしの「ふたりのお父さん」を雷で打って、まともにしたい。そんなこというと「差別だ」と叱られるから、だんまりを突き通すのだけど。そもそも、何かを主張したいわけじゃない。ただ、おかしな世界のなかでは、もっともまともなわたしが差別されてる気がして、気持ちわるいだけだ。