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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
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  • 煤煙〜浦安八景〜

    ひざのうらはやお
    500円
    大衆小説
    ★推薦文を読む

  • 煤煙けぶる架空都市「浦安」を舞台とした八つの短編集。
    千葉県浦安市をモデルとした「浦安」に住まう様々な人々の悲喜こもごもを描く。ひざのうらはやおの代表作にしてトップセラー。

試し読み

「鉄屑」より抜粋

 老朽化した鉄骨造の公共施設が急増し、順次改修されていく中で、水道管や換気管の取り替えも行われ需要が急増したため、この鉄工所の中でも鋼管部の各班は大忙しだった。兼政の班も、工員の残業や休日稼働はないものの、各員総出で市の発注に取り組んでいるため、余裕はもとよりない。班長になって三年、これほど働いた月はない。部下の仕事を手伝ったこともあった。こっそり夜中に忍び込んで帳簿をつけたこともあった。鉄工所は残業を厳しく禁じているし、残業手当もよほどのことがない限り出さない。しかし納品を遅らせるわけにはいかないから、機械が動かせるうちは部下の仕事を手伝って、自分の仕事は時間外や休日にこっそり、というのが班長たちの間で行われていた。特に鋼管を薄くする行程が難しく、もとは熟練工であった兼政はほとんど二人ぶんの仕事を肩代わりしていた。従って彼はとりまとめの仕事や帳簿、日誌などの雑務を休日や金曜日の深夜に鉄工所に忍び込んで行う。鉄工所の製品は非常に重いものばかりで鋼の鉄扉と鈍重な鍵がしてあるが、泥棒がそんなものを持ち出すはずがないので警備員を雇うなどの堅固な対策は行われていない。そのためか他の班長級のものと鉢合わせすることもしばしばあった。彼らは出会うとばつが悪そうに歯切れの悪い挨拶をし、めいめいの仕事へと向き直るのだ。

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堅実で明晰な文体が誘う「浦安」への旅

架空の「浦安」を舞台に繰り広げられる、八つの「浦安×○○」。
明るいハレの日を描いたものもあり、かと思えば心中物や陰鬱な怪談めいたものもあり、各話異なる趣を備えています。

作者は浦安市のご出身だそうです。書き手にとって自分の故郷は、ともすれば内輪ネタや独りよがりに終始してしまいそうな難しい題材のように思いますが、そうならずに完成度の高い作品集となっているのは、全編一貫した堅実かつ明晰な文体と、題材に対する絶妙な距離感のためではないかと感じました。

この距離感は、読み手が現実の浦安市に縁があるかないかにかかわらず、「浦安」にとってのストレンジャーに位置づける役割を果たしています。
「余所者」というほど無縁ではないけれど、決して「浦安」の中の人ではなく、かの街に何の影響ももたらし得ない、ほんの一時の逗留者です。

文体によって、読み手の客観性も常に適切に保たれています。それゆえ読み手が「浦安八景」のいずれに心惹かれるかは、その人の嗜好や関心、心のありようを色濃く反映したものになるはずです。

「浦安」はただそこに在るだけで、逗留者たる読み手がそれぞれの瞳に異なるものを映すとしたら、それはまさしく旅そのものではないでしょうか。

私個人としては、「老人と猫」と「夜更けに咲く灰色の花」が強く印象に残りました。
あなたはどうでしたか、と、同じく「浦安」を訪れた人に聞いてみたくなります。

あなたも旅に出てみませんか。
行き先は千葉県浦安市、ただし、架空の。

泡野瑤子

架空都市「浦安」そこで人は生きてゆく

 連作短編集で、現実の浦安とは似て非なる架空の都市「浦安」を舞台にしている。
 そもそも描かれる都市は架空だし、私は現実の浦安を知らない。
 その点については、物語の各扉に適切なリードが付いているので、心配要らない。
 次のページから始まる「浦安」の「部分」が、「浦安」にとってなにを意味しているのか、分かる仕様になっている。

 登場人物たちに英雄はいないし、過去の失敗も、現在の鬱屈も、登場人物の頑張りで覆ったりもしない。
 通勤電車の中で市役所勤務の職員は自傷痕のある女学生を心配するが、それでなにが変わるわけではないし、「夢の国」の娼婦との交流を通じて郷里での新生活を夢見る建設業の日雇い労働者は現実の残酷さを突きつけられることになる。
 都市化によって職を失った漁夫は無残な結末を迎え、駄菓子屋で未来を語る少年たちは決意する。
 息ができないほどに息苦しい物語もあれば、松葉の涼しい香り、あるいは潮の香りのする物語がある。
 主人公はもとより、(おそらく時代も多少前後しつつ)雰囲気もバラバラの短編集が、ある種の統一感を醸しているのは、この作品集が都市の物語だからだろう。
 全編、だれかの視点で体感する、都市の物語。
 都市は人の悪意も善意も生命力も死への渇望も、すべてを養分にしてそこにある。

 けれど、人は都市に生かされているのではない。都市が人によって活かされている……作者のそんなスタンスも透けて見える、架空都市「浦安」に生きる都市と人の物語です。

宮田秩早