「燃えてしまう」(題詠「灯」)
いぢわるが誰にも打つからないやうに胸に灯台を建てておく
明るみに出すこと痛め付けること 怖い、夜の海を湛へる
燃えて痩せて周りを照らし終へて死ぬわたし蝋燭に生まれたかつた
ほらね笑つてみせてよルルカきみの家も灯りが点いたよクリスマスだよ
■ 泉由良
いぢわるが誰にも打つからないやうに胸に灯台を建てておく
明るみに出すこと痛め付けること 怖い、夜の海を湛へる
燃えて痩せて周りを照らし終へて死ぬわたし蝋燭に生まれたかつた
ほらね笑つてみせてよルルカきみの家も灯りが点いたよクリスマスだよ
■ 泉由良
文庫本開き辿ればそこにある我には見えぬ青い幻燈
進むたび先にともさる電灯はあたたかいとも、冷たいとも
カンテラの灯りは想像の中だけでずっとずうっと燃えております
glow of happiness 心の灯火はほんの少しの風で消えるの
■ 朝凪空也
黄金の銀杏並木はその侭に黄金の路となる農学部
赤い葉もあをい葉も冬が撫で去りて落ちてゆきたり何故あかるくなる
落葉のあとで枝枝見えしとき刺し違へてゐて胸も尖ぬ
葉を踏みて「かしゃり」が次の「かしゃり」までダンスのやうに歩く御所にて
落ちた葉は崩れをり続き何処までも落ち地の底で沈黙の侭
無口だね京大近くのカフェーにて季節柄の寂しいのだと決める
カフェラテの泡が消えたらさやうなら押し葉の栞で綴ぢたら終り
園庭の落ち葉拾ひてたんたんと絵具叩いて紙にしなせる
平たき眼をして一枚ひらう葉の葉脈これが樹の血脈か
■ 泉由良
これはもと何枚の葉かティーバッグの中はよく見えない緑茶
これはよく見える茶漉しでこしているこれから立てる安いお抹茶
この中にも葉はあるのかと振ってみるインスタントミルクティーの粉末
残された葉書の画像データをみ君に手紙を送りたくなる
樹であった葉は確かに樹であった落ちたときにはもうただの葉で
■ 朝凪空也
金を出し時間を使いバーチャルの世界に逃げて、逃げて、逃げて
仮装
化粧してそれなりに見える服を着て仮装し武装し息を殺すの
火葬
肉焼ける匂いもなにもわからずにただ煙だけがのびる火葬場
下層
あす食べるお米がなくて無保険で電気もガスも止められました
■ 朝凪空也
タバスコで これでもかと仮装した イタリアン 案外食べられた 学生の頃
そばうどん だし気(け)のものは ことごとく 一味で仮装 これまた美味
せんべいは 塩もいいけど しょうゆ味 仮装で変わる 腹持ちの時間
カレーなら ナンに装うか ライスにするか どちらの仮装も 捨てがたし
ニンニクは 家族みんなが 避けるから 私しかできない 美味なる仮装
■ 偲川遙
雨のなか看板見上ぐ映画館、ひとり今宵はペーパー・ムーン
トリックとトリップのあひだの距離の十五センチで会議は踊る
この地から旅立つときは独りだらう八十日間世界一周
醒めたとき夜が一回転してゐて笑つてゐるのはペーパー・ムーン
ひとりだから結ぶのは解けてゐるからだから星座になりたいつて月と泣く
嘘つきは蝙蝠傘を差し出して「雨が降るから」などと云ふのだ
ものがたりの重要登場人物が星座になれるのギリシャのはなし
星座になりたいだなんて云はないで恋はしないでペーパー・ムーン
それは吊るもの愛をひつかける為の釘、信じないもの嘘つきのすき
深爪の三日月の月が疼く頃また呟いた「嘘つきがすき」
■ 泉由良
秋風や 友に誘われ 出てみれば 馬も眠りし 満月の夜
そぞろ歩く 道の暗きは 比類なく ただ光るのは 天頂の月
目を移し ふと我らがあとを 見てみれば ほの白く浮かぶ 月影ぞある
月影と 友と四人で 行く道は 虫の声 片時も絶えず
月見れば 思い起こすは 青き日々 あの月影の 行方やいずこ
■ 偲川遥
毎月の取捨選択の結末に残ったものが私の人生
あの人は月のようだね裏側は誰にも見せず一人凍える
リゾ婚でムーン・ブライド流行ってる未来までちょっと見に行ってくる
歯科治療終わり毎月来る葉書「定期検診おいでください」
しがみつくふりしてぐっと三日月の形になれと残す爪あと
■ 朝凪空也
でたらめに星が並んだ夜のこと 目を光らせて出かける準備
お星さまの評論家気取り彼氏気取りにぎやかな深夜のファミレス
星同士のケンカだパンチが当たるたび夜空に上がるぐちゃぐちゃな星
来年の花火は一緒に見ようね、とコメット・ハレーと約束したこと
図書館で迷うというのは本たちに愛されている証拠なのだよ
おおい、ぼくだ。いい子にしてれば小さな死をあげるよ窓を開けておいてね
視えなくても残った絆があるかぎりトゥインクルぼくはだまされないぞ
戦いは昨日の明日 おとうとは短歌バイキングで腹いっぱい
絶対に泣かないことを条件に星の紳士に会わせてあげる
彗星にみんな何かを盗まれて、恥ずかしいから話はおしまい。
■ 壬生キヨム